（うん、悪くない。見えない触手に掴まれたフェラマはなかなかエッチ。スクショ必須ですわ）
　着ぐるみさんはギターを奏でながら、そんなことを思っていた。でも、きっちり味方の防御力を上げつづける水激奏『泡沫の人魚姫』を奏で続けるあたりそつない。
　その傍らで、MP回復ポーションを飲んでいた瑠樹は小さくため息を吐いた。
「セッションは楽しいねぇ。でも、バトルは大変だねぇ……」
　幸いにも前衛が必死にヘイトを稼いでくれるお陰でダメージはそこまでひどくはない。だが、前衛を支えるべく曲を奏で続け、MPが減っていく。
「ん、これでエネルギーチャージ！　がんばるよぉ～！」
　瑠樹は再び攻撃力を上げる『おうえんマーチ』を愛らしいオカリナで奏で始める。歌楽士の地道な援護のお陰で保たれている前衛だが、着ぐるみさんは冷静に周囲を見ている。
（魔導士の彼女は床に氷を張る事で観客席へと上がっていった。壁はそんなに高くはない。跳ぶスキルをつかったり障害物を設置したり、フェラマに壁を攻撃してもらえば、観客席にいける……かも？）
　何かない、かな……とあたりを見渡す着ぐるみさんだったが、障害物はない。

( 'ㅅ')＜まぁ、奏でるさ。

　着ぐるみさんと瑠樹は、実に息の合った演奏を繰り広げる。そして、『反響』によるスピーカーで戦場の隅々にまで広げていく。
（でも……どっちかが欠けても戦況は……）
　着ぐるみさんは、真面目な眼差しでフェラマと前衛を見つめた。

　一方、フェラマは喜びに心を震わせていた。
　彼女は、楓が推理した通り治癒士や歌楽士から倒していこうと考えていた。だが、想像以上に冒険者たちは雑なようで緻密な連携を組んでいる。
（１３人で私を落とそうというのか）
　鈍る事のない闘志と好奇心に満ちる眼。フェラマの瞳が、炎のような煌めきに満ちる。

　――これは試練ぞ。　踊れ、冒険者達。

　フェラマは笑う。笑って飛び掛かる。
　その強靭な一撃が、無慈悲にも振るわれるは……前衛へ治療を施すトワ！
「えっ？！　わわわわ？！　ピンチでス！！？」
「トワちゃん！？」　「トワ！！」
　夏朝が叫び、楓が駆けだす。だが、間に合わない。『縮地』が使える軽戦士のビルドならば、間に合っていたかもしれないが……。
（間に合ってくれ！）
　それでも駆けだす彼を追い抜く、青白い影。インラインスケートで滑る柚春だ。滑らかな動きでトワを抱え、紙一重で攻撃を避ける。
「ヘイトは確かに前衛に集めていた筈なのに……？！」
「もっとダメージロール回せ！　治癒士と歌楽士への攻撃を俺達で捌くんだ！！」
　真白が内心焦りながらも『透晶の大盾』２つを鳴らしフェラマへと突っ込んでいく。楓が叫べば一早く碧南が跳躍し真白に続く。
「さあ！　自慢の一撃ってやらを放ってみてよ！」
　真白の『挑発』にフェラマが笑い、同時に放たれる強力な一撃。それが『踊りへの誘い』だと看破した夏朝は、すかさずBS回復の『もこもこぎんねこリジェネレーション』（以下銀猫と表記）の準備をする。
　真白が身構え、ノックバック耐性付与効果のある『盾の誇り』とダメージカット効果のある『鉄壁』を同時に発動させる。紙一重のタイミングで『踊りへの誘い』が放たれるも、焦らず『シールドバッシュ』で反撃する。
　骨響かせる衝撃に恍惚にも似た笑みのフェラマ。だが、『怒り』がばら撒かれ、舞い上がる影が彼女を襲う。
「誘われたなら、答えないとね？」
「ほらっ、踊っておくれよ」
　碧南が気を纏った拳を放てば、都が再び『ランページスラッシュ』を叩き込む。それに続けとばかりにいくつも飛ぶ矢は静かに矢を放ち続ける薫だ。
（まだ、タイミング的に効果が薄いでしょうね）
　薫の視線の先にいる都が、ヘイトを己に向けようと大剣を振り回す。入れ違いに飛び込んだ戌貝 二一が再びクナイの連撃を浴びせれば、柚春から放たれる気のラッシュ。
（これだけ前衛が張り付いているというのに……何故……）
　薫は、焦りそうになる己を律しながら的確に矢を放ち続けた。

　Reiことレオンは、前衛たちの戦いに息を飲んでいた。予想以上の熱気に、少々疲労を感じつつも己を律するべく胸に手を当て、深呼吸。
目の前ではフェラマが美しい動きで前衛たちをあしらっている。尻尾のトゲが飛ぶたびに、手足が振るわれるたびに、誰かが傷つきHPを減らしていく。そんな彼らを必死に治癒士２人が手分けして癒すが、この調子では２人のMPが先に枯渇してしまうのではないだろうか。
　『怒り』のBSにより、前線が乱れかけるのを、夏朝の『銀猫』が、トワの『フェアリーサークル』が彼らを苛むBSを解除する。
（フェラマは、強い。だけど……っ！）
　場の空気に飲まれ、フェラマの強さに足がすくみ、呪文が途切れそうになる。だが、勝利を欲するのは、皆同じ。
　レオンは当初、『可愛い衣装がある』という理由だけで魔導士（女性アバター）を選び遊んでいた。だが、このレイドも……なかなか悪くはない気がする。
（適度な距離を保って……放つ！）
　Reiは、ふっ、と鉄扇をふって『アクアウェーブ』を放つ。フェラマの熱気を覚ますように。そして、音もなく飛沫が波のまま凍りつく。振り返れば、愛らしい雪の精が不敵な笑みを浮かべていた。
「さっきの、おかえし！」
　前衛が全力でヘイトを稼ぎまくったお陰で詠唱に集中できたスピカから冷気が放たれる。味方は一斉に離脱し、同時に展開される氷の檻。『アイシクルプリズン』である。