双界からの試練　―鋼竜女皇フェラマ―｜リアクション

双界からの試練　―鋼竜女皇フェラマ―

　――銀界ニヴルヘイム

　桜色の唇が紡ぐ最後のスペル。巻き起こるは白銀の冷気の暴虐。それを諸に食らいながらもフェラマの手が、優雅に閃く。

『踊りへの誘い』

「スピカが狙われている！！　走れええぇぇ！！」
　楓が、力の限り叫び、その前を旋風が駆け抜ける。
「間に合ってえええええええっ！」
　柚春から放たれる、金色のオーラがフェラマを穿つ。インラインのトリックスラローム『不知火』を重ね掛けに重ね掛けした分のオーラを全部消費した、ありったけの一撃だ。まさかたまったと同時に放つことになろうとは彼女も思わなかっただろう。
（でも、『彼』ならば……やったかもしれない）
　脳裏に浮かんだ自身のカプギアに僅かにほほ笑みながらも、柚春は再び『不知火』を添付しようと走る。
　その間にスピカはまた粉雪を纏い、詠唱しながら回避を試みる。目的を察知した楓は軽戦士２人と都、碧南と共にフェラマへと攻撃を仕掛けた。
「いまのうちに回復でス！」
　トワがスピカへMP回復の『フェアリーダンス』を発動させ、夏朝も前衛組へ的確に『金猫』を投げて支援する。
　だが、彼らはまだ気づいていなかった。フェラマの狙いがスピカだけではない、と。

（これが、レイドバトル……？）
　ゲームをはじめて日が浅いRei……いや、レオンは、この状況に内心戸惑っていた。
（いきなり、最大奥義的なスキルを放つものなのか……？）
　疑問に思っているのは、薫も同じ。彼女も矢を放ちながらも戸惑いを隠せなかった。
「なんか嫌な予感しますね……」
　薫が不安を漏らしているとギターとオカリナの音色が変わった。とっても行進しづらいメロディーが、フェラマに絡みつく。と同時にどことなく妖しい音色が響き渡る。水激奏『混沌姫の戯れ』が、見えない触手を呼び起こしその動きを鈍らせる。

　――やはり、歌楽士は侮れませんね。

　フェラマが翼、尻尾、手足を振るって前衛を払い落そうとする。その視線が狙うのはスピカでも治癒士でもなく、歌楽士の２人。
（あぁ、狙われるのぐらい知っている。演奏中は敏捷が下がるからね）
　致し方ない、と頷きつつも回避を考える着ぐるみさん。しかし、ここでもオーラを纏って走る柚春がぴっ、と指をフェラマに向ける。
　風を切るオーラをフェラマは避ける。だが……！
「こっちみて！」
　二一が懐に飛び込み、クナイでの連撃！　流石に麻痺は添付できなかったが手堅くダメージを打ち込んでいく。そこに続くは都。ソニックチャージで接敵しそのままランページスラッシュをかましたのだ。

　――小癪なっ！

　フェラマの翼が、尻尾が都を弾き飛ばす。立ち上がろうとする都へ更なる攻撃を放つフェラマだが、薫の『強射』とReiの『アクアウェーブ』がそれを阻止する。
（治癒士と歌楽士、どっちも狙っている。次狙うのは……）
　楓の目の前で、フェラマは前衛陣を邪魔だ、といわんばかりのそぶりで尻尾を奮う。その視線の先には、味方を健気に支える治癒士の夏朝とトワの姿。そして……戦闘を盛り上げるBGMで仲間を支える歌楽士である着ぐるみさんと瑠樹！！
「！　皆、治癒士と歌楽士が……っ？！」
　楓が悟り、知らせようとしたその時、息が詰まった。我に返った時、楓はダンッ！　と鈍い音を立てて黒曜石の床に叩きつけられていた。フェラマの攻撃を食らったのだ。
（……っ！）
　痛みと共に沸き起こる熱い『怒り』が、楓の中から沸々と沸き起こる。だが、同時に自分にBS『怒り』が添付された事を感じ取った。
　フェラマへ駆け出す楓。その視線の先では同じように『怒り』のBSがついた都がランページスラッシュを叩きつける。
（他に『怒り』が付いた人はいない！）
　それを確認したトワが状態異常回復の領域を作る『フェアリーサークル』を発動させ、楓は我に返る。
（トワに助けられるとは……）
　楓が僅かに目を細め、口元が緩みそうになるのを堪えて攻撃する。きれいな蹴りが放たれるもするり、と跳ね返す。
（隙が無い……）
　呪文を唱えながら、スピカはじっかりとフェラマを見つめながらため息を吐いた。