双界からの試練　―鋼竜女皇フェラマ―｜リアクション

双界からの試練　―鋼竜女皇フェラマ―

「やられっぱなしじゃいられないわっ！」
　フェラマの攻撃を躱しきり、そのまま攻撃へと転じる羽生碧南が、フェラマの首へと強力な蹴りを放つ。少しでも治癒士との距離を取るためだ。それに続くように二一が疾風駆を施し、クナイで切り付ける。
（狙いは、治癒士なんでしょう？）
　碧南が攻撃する様を、アリーナの外周をインラインスケートで滑る稲積柚春は見ていた。彼女は勢いのままフェラマに接敵すると、にっ、と笑って通り過ぎる。フェラマは碧南ではなく、柚春へと興味を示すも、気が付いた時にはいない。
　彼女がオレンジ色のオーラを纏っているが、これは『不知火』によるものだ。インラインのトリックスラローム『不知火』を行うと、使用者の物理攻撃がアップする。これの特徴は重ね掛けの度に効果が延長し、オーラの色が変わるのだ。
（なんか、うまいぐあいに囮になっちゃったね）
　くすり、と笑う柚春の視線の先、ヘイト稼ぎも兼ねて動く黒兎都がフェラマへと切りかかる。彼女の攻撃に合わせはじける水流。Reiが鉄扇を振るって巻き起こした『アクアウェーブ』だ。

　――これは試練。ならば、わかっておろう？

　フェラマの言葉に納得しながらも、夜海霧楓は水属性の棍を手に前へと出る。冷静に獲物を奮い、飛んでくるトゲをはじき返す。
「っ！　白兵攻撃多め、大ダメージ注意！！」
　フェラマの表情、攻撃パターンから予測し、他の前衛組に注意を促しつつも彼の目はフェラマから外れない。
（強烈な一撃や敵や観客の目を引き付ける派手さは無くていい。最低限の被弾に努め、パーティ最高のDPSを稼ぐために黙々と殴り続ける……といきたかったところだが、な）
　内心苦笑しながらも彼は警戒していた。まだ隠し種があるのではないか、と。
（まだ始まったばかり。スタート直後に『闘乱の祝祭』が発動するとは思わなかったが、金属の噴水は発動させなさそうだ）
　油断できない、と水属性の棍で殴りながらも警戒しつづける。まぁ、水よりも塩水の方が熱も奪えるし金属製にいくらか有利に、と見ているのだが。
（奴の狙いが、まだあるみたいだ。それを見抜かなければ……）

　ただでさえ少ない人数で支えている戦線が、一気に崩れるぞ！

　彼の危惧に気付く者は、果たして……。

　フェラマは一度『闘乱の祝祭』で竜になり暴れた後、尻尾のトゲと徒手空拳で冒険者たちを相手していた。ヒット＆アウェイで連撃を繰り出す二一、仲間の攻撃の隙を埋めるよう手堅く拳や足を打ち込んでくる碧南、中距離の高台から矢を放ってくる薫、合間合間にヘイトを稼ぎ強力な力を打ち込んでくる真白と都、状況を把握し全体に知らせる楓……、と術者への道を塞ぐように近・中距離攻撃勢が絶え間なく攻撃してくるのだ。
（それもそうだろう。人数も少ないのだから）
　丁度いい距離に位置し夏朝とトワが分担して回復を行えば、さらにちょっと後ろで着ぐるみさん（＝月詠）と瑠樹が和むセッションをして冒険者たちを支えている。
　Rei（＝レオン）が絶妙なタイミングで『アイスショット』を打ち込んでくるし、柚春は外周を走り時折意識を逸らすように近くを走るが、目的が分からない。
（あと一人……）
　フェラマが眼を見開く。彼女の中で勘が唸る。彼女を『今』仕留めなければ、と。治癒士を仕留めるより早く、大ダメージを叩き込まねば、と。
　その少女……スピカを見つけたフェラマは、翼を広げスピカへと飛んでいく。
「っ？！　ヘイトは重騎士にむいて……」
　楓が面食らいながらも追いかける。その先にいたのは、高速詠唱を終えたスピカだ。
（開幕と同時……はダメだった。……だけど）
　熱気を切り開く、冷気。少女の眼が飛び込むフェラマを射抜く。