新雪とともに日が昇る｜リアクション

新雪とともに日が昇る

☆新しいバイト

　男子高生の綴柚枝はちらほらと舞う雪の道を歩いていた。
（今年は受験生!　つっても第一希望の芸術系大学の推薦枠貰えそうだし、そんなにカツカツしてないんだよなー）
　勉強より、動画投稿を楽しんでいる柚枝には別な問題があった。
　『ペストマスクの人』として有名になったけれど、人気が出れば出たで悩みも生まれる。
（問題は受験より活動費。動画の収入は一応あるんだけど、機材増やしたり、芸の肥やしにするためにCD買ったり本買ったり旅行したりってするのって結構金かかるから）
　歩きながら考えていた柚枝は、ふと思いついた。
「そうだ、バイトしよ」
　舞い散る雪は、実は神魂の影響を受けた雪『Starting Snow』だったのだが、その影響もあったのだろうか。

　善は急げ。
　そんなわけでいろいろ調べて、雰囲気良さげなCafe【喜望峰】で面接を受けた。
　店内に入るとまず鼻を擽るのは香ばしい珈琲の香だ。
　白と青を基調とした地中海風のインテリアで纏められた店内には波の音とボサノヴァが流れ、時折風が揺らすウィンドチャイムの音が混じる。
（いいなあ、こんな雰囲気で配信するのもいいよね）
　面接で会ったオーナーはちょい怖そうだったけど、柚枝は得意の笑顔を向けた。
　オーナーの関係で外国のお客さんも結構来るが、英語はできるか、と聞かれた。
「はい、英語は得意だし、拙いけどドイツ語とイタリア語も齧ってます」
　父方の祖母がドイツ人なので、早くからドイツ語には親しんでいた。
　オーナーは頷き、
「そりゃ助かる」
　緩そうな店長は嬉しそうに言った。
　格好良く爽やかで明朗快活な柚枝は、接客のバイトとして文句のつけようがなかったようだ。
「よかったら今日から入ってくれないか」
「はい、よろしくお願いします」
　そうして柚枝は働き始めた。

　渡された制服はシンプルで、白シャツに黒いパンツとおなじく黒のギャルソンエプロン。
　アクセとか髪色は自由。
（シフトも融通が効くし、お客さんも良い人多いし、時給も悪くないし働きやすいバイト先見つけられてラッキー!）
　外国のお客さんともコミュニケーションにはあまり困らないって言うか、勉強になってるし良い刺激にもなっている。
「ありがとうございました～！」　
　お客さんを見送り片づけをしながら柚枝は思う。
（さーて、次はどんな動画作るかな）

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