弁天猫の有難迷惑なご利益｜リアクション

弁天猫の有難迷惑なご利益

　　　１

「大黒猫、ゲット」
　米俵の座布団に座り、烏帽子をかぶった猫のスタンプを押して、佐藤瀬莉はにんまりと笑った。
　この日、瀬莉は朝早くから七福猫のスタンプラリーに出かけていた。家は星ヶ丘にあるので、最初は寿老猫だ。そこからシーサイドアウトレットの布袋猫、スポーツセンターの毘沙門猫と回り、たった今、寝子島漁港の大黒猫へのお参りをすませたところだった。
　ふう、と瀬莉は息をついた。思ったより、くたびれる作業だ。
　大体、寝子島の七福猫は、一度に回るには少々バランスが悪い。ほとんどが島の東側に集まっているのだ。
　そもそも瀬莉が七福猫巡りをしようと思いついたのは、近所に寿老猫があるからだ。冬休みの宿題である絵日記の題材として、最適だと考えた。
　突発的な思い付きだったので、――島内ということもあり――ろくな下調べをせずに出かけた。
　寿老猫の傍に、スタンプとスタンプ台、それに寝子島の簡易マップが置かれていた。マップには七福猫の簡単な説明と空白の円があり、それにスタンプを押していくのだ。無論、持参したノートや手帳に押してもいい。
　瀬莉はちょっと迷って、そのマップと手帳の両方に押すことにした。
　そこから案内に従って、布袋猫へと向かった。徒歩でもいいが、瀬莉は電車一択だ。それでも、小学生の彼女には体力的に負担だった。
　残るは恵比寿猫、弁天猫、福禄寿猫の三つだ。どう回るのが正解だろうか、と地図を見ながら考える。何しろ新しい観光スポットなので、ネットにも攻略コースなどまだ上がっていないのだ。
「……やっぱり、恵比寿猫だよね」
　途中で買ったホットミルクティーを飲んで、瀬莉は呟いた。
　電車に乗るのだから、駅前の恵比寿猫が次になるだろう。それから弁天猫に向かうか、先に福禄寿猫にするか。
　行ってから決めようと思い、瀬莉はまた、電車に乗った。

　恵御納夏朝は、九夜山頂上展望台でのお参りをすませた。ここの七福猫は福禄寿猫。杖をつき、巻物を持ち、優しく微笑む猫の像だ。
　夏朝は、七福猫を探し出すときに、協力した一人である。それだけに、こうしてきちんとお社が設置されているのを見ると、感慨もひとしおだ。
　大黒猫だけは用事があって参加できなかったため、寝子島漁港を訪れた際は感動のあまり、自撮りを何枚も撮ってしまった。――どこでも大量に撮影したのだが。
　スタンプラリー用のマップを広げ、夏朝はふふっと笑った。
　烏帽子をかぶり、魚を抱えた、でぶっとした猫の像、大きな袋を背負い、朗らかに笑っているでぶっとした猫の像、米俵の座布団に乗り、烏帽子をかぶった猫の像、桃を持ち、鹿を連れた、幸せそうに眼を細めて微笑む猫の像、甲冑を着込み、槍と宝塔を携えた猫の像、そして福禄寿猫。
　どれも本物の七福猫によく似たスタンプだ。誰が元の絵を描いたのだろう？
　夏朝は三日に分けて、スタンプを集めた。最初は恵比寿猫と寿老猫、次の日が毘沙門猫、布袋猫、大黒猫。
　空白が埋まっていくのは、ちょっとした快感だった。残るは一つ、表参道商店街の弁天猫だけだ。買い物と猫巡りをするため、福禄寿猫と弁天猫を最終日にしたのだった。
「よーしっ、行くぞーっ」
　白い息を吐きながら、夏朝はロープウェイに乗り込んだ。

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