キラキラチアリーディング！　応援パレパレパレード♪｜リアクション

キラキラチアリーディング！　応援パレパレパレード♪

　ステージカー『低いド』は、他の派手で凝った舞台装置のステージとは違い、手狭で落ち着いた雰囲気である。
　音の精霊の生真面目な性格を反映してのことか。
　例えば街の楽団が、夜な夜な酒場に集まって、思い思いの楽器を手に、親密な相手に向けて気軽に演奏する……。
　そんな、外国の酒場のようなムードがある。

　椅子に腰かけて、アコーディオンを演奏するのは恵御納夏朝。
　周りには円を描くようにして観客が座っている。
　アットホームな、温かい空気があった。

　視線を奥に向けると、三脚カメラをこちらに向けた父と目があった。
　手を振る父に、笑顔でうなずく。
　一人ではない、というのは心強い。
　母はチアリーディングに参加すると言っていた。そちらを見ることはできないが、最後の九夜山のライブで、母と落ち合うことができるだろう。
　
　夏朝はアコーディオンを大きく広げ、蛇腹に思い切り息を吸い込ませる。
　大きくうねらせて、豊かななめらかな音を送り出す。
　アコーディオンは、きわめて特徴的な形態を持つ楽器だ。
　蛇腹でつながった筐体の、右と左がそれぞれ異なった役割を果たす。
　鍵盤のついた右が主旋律を演奏し、ボタンのついた左がベース音を奏でる。
　右と左がそれぞれ全く異なる役割をする楽器というのは珍しくないが、はっきりとお互いが役割分担をしていて、相補的な存在であることを明確にしめしているという点で、アコーディオンはとても特徴的だ。
（……）
　片方だけでは音楽は作れない。補い合う存在があってこそ、音楽は生まれる。

（本当は、夏夜ちゃんと、２人一緒にパレードしたかったけど……）
　別人格の夏夜と、心身ともに分離、共存。二人一緒にパレード。
　できれば一緒に演奏して、二人で楽しんで……。
　だが、それはかなわぬ夢だ。
（……僕だけでも、頑張る！）

　ゆっくり丁寧に鍵盤に指を走らせ、確かな指使いでボタンを操作する。
　
「オリジナルの童謡……タイトルは『おとのねこさんたちのうた』！」

♪ならんで８ぴき　おとのねこ
　みんなでにゃあにゃあ　うたってる
　いっぴき　ひとおん　じゅんばんに……

「ど　れ　み　ふぁ　そ　ら　し　にゃー！」

　最後の「にゃー」と同時に、鍵盤とボタンをぱっとたたいて、ひょうきんな音を立てると、周囲から笑いが漏れた。

　夏朝のもう一つの故郷、ドイツは民謡の国。
　炉端でドイツの子供たちは大人たちの歌う民謡に耳をすましていた。
　親しみやすく温かみのある音楽は、夏朝によく似あっていた。

♪かげから５ひきの　くろこねこ
　みんなとにゃあにゃあ　うたいたい
　みんなと　おとが　ちょっとちがう…

「ど　れ――ふぁ　そ　ら――にゃあ…』

　右側の筐体にしつらえた鍵盤の、黒鍵部分を強調しながら歌って見せる夏朝。
　半音階の微妙なけだるさを、最後の「にゃあ……」に籠めて歌うと、再び観客席から笑顔が漏れた。

　音階をわかりやすく提示し、音の特性を生かして、オクターブのもつ力を聞いている子供たちに伝えることもできる。
　なじみやすく、シンプルで、それでいて教育効果もある。
　生真面目な夏朝らしい、つくりこんだ童謡だった。

♪おとがちがっても　いいじゃない
　まざってにゃあにゃあ　うたおうよ
　いっぴき　ひとおん　じゅんばんに…
　
「「ど　れ　み　ふぁ　そ　ら　し　にゃー！」

　――その時。
　光に包まれるステージの中で、父親を含めた何人かは『彼女』を見たという。
　夏朝は、確かに存在を感じられた。
　夏朝のギターに合わせるように、はかなげなクラシックギターの音。
　やわらかく、それでいて力強く、夏朝を見守り、支え、いつくしむような音色。
　光が渦巻くステージの上で、彼らは確かに見たのだ。
　ギターを抱えた少女が、夏朝の演奏に合わせ、優しくギターの弦をつま弾くのを。
　夏朝と対になるような服装で、夏朝によく似た表情で。
　二人が確かに目を合わせ、笑みを交しあうのを。