キラキラチアリーディング！　応援パレパレパレード♪｜リアクション

キラキラチアリーディング！　応援パレパレパレード♪

　夜明けの瞬間が、彼女は好きだ。
　深い漆黒の西空が、すばらしい速度で葡萄色に変わっていく。
　東の水平線が明るんだと思えば、赤、青、オレンジ、様々な光のプリズムが散らされ、あっという間に夜が追いやられる。
　夏空の、壮麗で力強い星々の輝きとは違う、繊細でやわらかな星々の光は、朝の光の中に溶け出してしまっている。
　その淡い光の中で、高度の高い下弦の月が浮かんでいる。
　夜と朝、闇と光が渾然と混じり合う、その一瞬……。

　その瞬間、彼女は何者でもない。

　どこにでもいる普通の少女、夢宮瑠奈。アイドルパーソナリティ、末明　せれね。そのどちらでもあり、そのどちらでもない。

　――貴女は誰？

　そう問われたとしても、彼女は答えないだろう。

　夜が朝に変わる瞬間、彼女はただひとりの人格という卑小な枠を苦もなく飛び越えて、あらゆる人格と交流し、あらゆる人格になりきる。

　あらゆる光の混ざり合う瞬間、彼女はすべての少女なのだ。
　
　接続された女……彼女こそ、あらゆる世界を感じ取る一個の感受性であり、いま生み落とされた世界の雛なのだ。
　
　彼方に望めるのは、布を被せられ、ロープで雁字搦めに縛られた、輿の上のオブジェ。
　突き出た二本の猫耳の、シルエットが浮かび上がる。

　ネコビエ様。不穏に揺れる世界を、まるで救済するかのように発掘された、御神体。それを慰め、祀るために、壮麗なパレードが開催される。
　彼女はそのパレードの総指揮の一人であり、パレードのチアリーダーであり、ネコビエに使える巫女の一人であるのだ。

　この日のために、多くの時間を費やして、数々の練習を重ねた。今日この日、パレード本番の日のために。
　なにが起こるか……。果たして、うまくいくのか……。
　彼女の身内に湧き上がる、緊張と不安、そして微かな高揚は、アイドルである彼女に慣れたものだ。

　大丈夫。私はアイドルだから。
　決然と空に向けた眦を、朝の光が照らし出す。

　アイドルに不可能なんてない。
　歌で、みなを幸せにする。
　それが、私の使命だから。

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