鍵を開いて｜リアクション

鍵を開いて

　渥美ニナはシーサイドタウンにある鍵屋の娘であり、自身も外回り担当の鍵師として働いている。
　本日は店舗担当として出勤しており、奥様から依頼された合い鍵の作成も、封印されたおもちゃ箱を開けて欲しいと言ってきた串田さんと言う女の子の依頼もバッチシ完璧。
　お客様はどなたも満足して帰られたようで、ニナもまた満足そうな様子。と、思ったがどうやらニナは串田さんを見て引っかかっている事があるようだ。

「うーん……あ、思い出しました！」

　ポンと手を打つ。
　どうやら忘れていた何かをニナは思い出したらしい。でも、今は仕事中なので一先ずは仕事を片付ける事にしたようだ。

「あああったあった！」

　目的の物を見つけて思わず大声を出してしまうニナ。しかし、部屋の押入れをひっくり返した為に部屋は中々大変な有様でありこれは後が大変そうだ。
　そして、押し入れの奥から出て来たニナがその手に持っているのは、閉じられた箱オルゴールだった。

「いやー……すっかり存在を忘れていましたね」

　それは別に特別な物、というわけではない。でも、当時はお気に入りだった覚えがある。では、そんな物が何故、押し入れの奥にあったのか。
　実はある時、鍵を失くしてしまって開けれなくなってしまったのだ。恐らく親に言えば難なく開けて貰う事は出来ただろう。何せ鍵がかかっているとは言っても子供用のおもちゃだ。
　だけど、中身を見られるのが恥ずかしくて。それにお気に入りの品を誰かに見せるのも何とも言えない気分で。だから、奥にしまい込んでいた。そして、そのまま忘れてしまっていたのだ。

「ふふ」

　当時の自分を思い出してニナは笑みをこぼす。
　細い工具を鍵穴に入れれば、鍵師としての技術と経験によって直ぐに鍵の構造は理解できた。子供用だけあって本当にちゃちな作りだ。
　壊れないように慎重に力加減を調節して工具を操れば、いとも簡単にカチャンと言う音がして開いた。

　蓋を開けてみると、出てきたのは化粧品を模した子供のおもちゃ。微かにチープな香りが漂って来る。

「……本当に、忘れてました」

　ニナは昔から女の子っぽいが好きなのだが、それが当時は気恥ずかしかったのだ。女の子なのだから別におかしくはないのに。
　でも、そういう気持ちも時が経つに連れて薄れていき、だから余計にこの箱オルゴールの事を忘れてしまったのかもしれない。
　もし、できるならば過去の自分に伝えたいとニナは思う。

「大丈夫、私は私なりに、女の子楽しんでますよ」

　と。
　当時の想いもまた大事なものだ。だから、箱オルゴールをそっと抱えて今使っている化粧ポーチと並べるのだった。

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