たのしいオンライン授業｜リアクション

たのしいオンライン授業

　桜花寮の食堂にて。
　響タルトとマーガレット・ライカーは調理台に置いたタブレットを覗きこんだ。
　そこに映るのは笑顔の白沢絢子先生である。今日はオンラインの家庭科実習だ。少人数で受けるので食堂には十人程度しかいない。しかも透明な仕切りがもうけてある。
「準備は大丈夫？　それじゃ、授業を始めましょう」
　まずは白沢先生の手順を見る。しかし、彼女が説明を始めた時、少し離れた調理台で悲鳴が上がった。
「やだ、ちょっと、Gがっ」
　女子が床に見ながら妙なステップを踏んだ。
「ん？」
　視線を落とすと何匹かのゴキがカサカサと動いていた。
「ひゃっっ」
　マーガレットがしがみついてきた。
「じ、じ、じーがいますっ」
　しかも数匹となると見えないだけでもっといるだろう。
「あ、ほんとだ」
　ゴキに混じってクモなんかも徘徊している。あちこちの調理台で悲鳴が上がっていた。
「仕方ないなぁ。片っ端からやっつけて行くしかないよね。お客さん用のスリッパ取ってくるね」
　すると、マーガレットに止められてた。
「つ、潰すのはダメだと思います、ほら中身が結構出ちゃうかも」
「なるべく飛び散らないように気を付けるから大丈夫だよ！」
「タルト先輩、スリッパでは限界がありますよ……？」
　そんな話をしていた時である。
「きゃあっ、水道がっ」
　声のした方へ視線を向けると、勢いよく水鉄砲が飛んできた。
「！」
　タルトとマーガレットは思わず腕で顔を覆う。全身びしょぬれになってしまった。
「うう、一体何が。先輩大丈夫ですか？」
　目を開けると、タルトの姿が消えていた。
「タルト先輩？」
　周りや画面の中は相変わらずパニック状態だが。
「もしかして、スリッパを取りに行ってます？」
　本気で潰そうとしていたみたいだったので、少し心配だ。
『ライカ―さん、なんだか騒がしいけど大丈夫？　響さんは？』
「水道がいきなり暴走したみたいで。片づけるのでちょっと待ってもらえますか？」
『準備が出来たら言ってね』
　と、足元に何かが触れた。
「ん？」
　そこには一匹の猫が。
「え？　あ、いつの間に」
　マーガレットはその場にしゃがんだ。
「猫さん、先輩知りませんか」
「にゃぁ～」
　人懐っこく、すり寄ってきたので、濡れてしまった体を撫でる。
　すると猫はじっと見つめてきた。訴えかけるような眼だ。
「えっと、もしかして」
　調理室の冷蔵庫から魚を取り出し、あまったお皿に乗せる。それから猫の前に置いた。
「お腹空いてるんですよね？　どうぞ」
　予想通り、猫はそれにかぶりつく。余程空腹だったのだろう。
「よしよし。それにしても先輩は一体どこへ？」

　数分前。タルトは顔を引きつらせていた。
（しまった、完全に猫になっちゃった……！）
　見るとマーガレットが巨人になっていて、床が近い。
(こうなったらマガレちゃんにごまかしてもらうしか。でも人の言葉がしゃべれないし、伝わるかな？)　
　そんなことを考えているうちにマーガレットがお皿を用意し始めた。
(え？)
　冷蔵庫から取り出したお魚を目の前に置かれる。
「さ、どうぞ」
　タルトは思わずそれにかぶりついた。
「おいしいですか？」
(はっ、そうじゃなくてっ)
　魚をもぐもぐしながら、マーガレットを見上げる。
「だめですよ。食べ過ぎは良くないです」
(だから、そうじゃなくてっ)
するとマーガレットに抱き上げられた。
(ちょっとちょっとっ)
『あらー可愛い猫ちゃん。響さんの代わり？』
（先生、そんなわけない……ってあっ）
　画面の向こうの先生が幼児化していた。びっくりするくらい大きなお腹の音がなっている。
（あー）
　ろっこんが発動してしまったよう。
「？　なんだか先生、ちょっと若返ったように見えますね」
(ちょっとまずいかもっ)
　タルトはマーガレットの腕からテーブルの上へ飛んだ。タブレットに鼻で触れ、電源を落とす。
（もう、あれを持ってくるしかない！）
「あ、猫さん、どこへ行くんですか？」
急いで部屋に戻り、ネコミケ用に用意したキャラのお面を引っ張り出した。調理室へ戻ると、
「あ、先輩？　どこへ行ってたんですか？」
「へ？」
　自分の姿を見回すと、ろっこんの効果が切れて、人間の姿に戻っていた。
「それ、ネコミケ用の……？　それかぶるとテンションが上がる、とかですか？」
「いやあ、まあ。そんなことより、授業受けなきゃね！」
　タブレットをつけると、白沢先生もいつもの姿に戻っていた。事態は収束したようだ。

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