家族がたり｜リアクション

家族がたり

●偶然の出会いは運命だったかもしれない両親の話を

　年が明け、もうすぐ冬休みも終わりに近づいたある日。
　水上桜は用事があって、寝子高を訪れた。
　用事は思ったより早く済んだので帰ろうと廊下を歩きながら窓の外を見ると、雪が降っていた。
「どうりで寒いと思った……」
　夜は冷えるかもと思っていた時、なぜだか知らないが、なんとなく家族のことについて話したくなった。
　誰に話せばいいのだろう。
「雪、降っているわね。どうりで寒いわけだわー」
　ちょうどたまたま、久保田美和先生が近くにいた桜に話しかけた。
「そうですね」
　少し間を置いてから、桜は話をする相手がいてちょうど良かったと家族の話をすることに。
「美和ちゃん先生、私の話、聞いてくれませんか？」
「話？　いいわよー。私に何でも話しなさーい」
　ノリノリで聞いてくれるようなので、話甲斐がありそうと話というのは……と語り始めた。

　桜が話したくなったのは、今は遠く離れている両親のことだ。
「最初は客と銀行員という関係だったんですよね、私の親は」
　彼女の父親は大手都銀「みけねこ銀行」に勤務している。
　４月よりニューヨーク支店勤務に伴い、ニューヨークで暮らすことになったので母と弟もニューヨークへ。
　桜は寝子高に入学し、桜花寮で生活することになった。
「お父さんとお母さんが出逢ったのは職場だったんですけど、いわゆる職場結婚ではなく、銀行員の父と顧客の母という関係からのスタートだったんです」
「それで、それで？」
　身を乗り出した美和ちゃん先生が早く続きを聞かせて、と身を乗り出す。
「ＯＬだったお母さんが通勤電車の中でスリに財布を盗られて、その際、銀行のキャッシュカードも紛失したので銀行に再発行手続きに行ったんです。手続きをした際の担当行員が、お父さんだったんです」
　その時はただの客と行員という関係で終わったが、１年程して再会することとなった。
　再会した当時、母親は付き合っていた彼氏に振られて、バーでＯＬ仲間とやけ酒飲んで大暴れ、大騒ぎ、大泣きした際に悪絡みした相手が父親だった。
「絡んだ相手が、偶然にも一年前に銀行で再発行手続きの担当だったお父さんだったんですって。お母さん、驚いたと思います」
「そういう偶然ってあるのねー。それもまた、素敵な出会いじゃない。で、それから二人はどうなったの？」
　話の続きが気になって仕方がない美和ちゃん先生は、早く続きを聞かせてと桜にせがむ。
「その時の顛末を父から聞いたけど、壮絶だったみたいです」
　どんなふうに壮絶かは……ちょっと言えない。
　その話を初めて聞いた時、桜は「うわあ……」とドン引きしたことは今でも覚えている。
　自分がドン引きしたことは、他人に話せない。話せたとしても、どう説明していいか悩む。
「すみません。話は聞いたんですけど、壮絶だったみたいということしか……」
　それを聞いた美和ちゃん先生は、よほどすごかったのね……と追及するのをやめた。
「まさかそれがきっかけで結婚するなんて。世の中判らないですね」
「本当に判らないわね。出会いも、きっかけも」
　私もそういう恋がしたいわー、と心の中で主張する美和ちゃん先生だった。

　話が終わると「失礼します」と言い、桜はその場を後にした。
　自分も両親のような出会い方で好きな人と会うのか、と思いつつ。

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