コケッコー！　新春☆初夢宝船フェア♪　～茄子編～｜リアクション

コケッコー！　新春☆初夢宝船フェア♪　～茄子編～

　役場勤務の三折部朝衣は朝の雑事を手早く済ませた。必要なファイルを手に宛がわれた席に戻った。
　早速、パソコンを起ち上げる。ファイルを開いて、ざっと中身の書類に目を通す。
「やりますかね」
　指を慣らすように動かして数字の入力を始めた。
「これも頼む」
　先輩の男性職員が新たなファイルを持ってきた。かなりの厚さがあった。
「わかりました」
　朝衣は快く引き受けると机の端に置いた。僅かな停滞も嫌って画面に目を戻す。ファイルの内容を参照しながら流れるようにキーを打ち込んでいく。
「これも追加で。他の部署の物になるが」
　先程の男性職員が二冊のファイルを追加した。目の高さに近くなるファイルをちらりと見た。朝衣の口角が不自然に吊り上がる。
　キーを打つ指が速くなった。
「三折部、コーヒーを頼む！」
　その声に目を向けると奥の席で係長が大きく手を振っていた。
「わかりました！」
　朝衣は立ち上がると小走りになった。備品の紙コップは使わず、専用のコップにコーヒーを淹れて運ぶ。
「お待たせしました」
　書類の邪魔にならないところにコップを置いた。
「悪いね」
「いいえ、これも立派な仕事なので」
　朝衣は見えないところで拳を握る。一礼してにこやかに自分の席に戻った。
　画面に向き合う。何回か呼吸をして画面とファイルを交互に見やる。
「先輩、お疲れ様です。急ぎの書類らしいです」
　新人の女子職員が、んしょ、と三冊のファイルを足した。
「頑張ってください」
「これも仕事だからね」
　女子職員はぺこりと頭を下げると愛らしく駆けていった。
　朝衣はファイルを眺めた。目の位置よりも高い。頭を超えているかもしれない。
「……仕事、仕事」
　目を剥いて笑う。そこに重々しい音が響く。
　見ると男性職員が台車に大量のファイルを載せて運んできた。朝衣は眉根を寄せた笑顔となった。
「悪いのですが、これを今日中にお願いできますか」
「なるほどね～」
　朝衣はゆっくりと立ち上がる。腕を組み、ファイルの山を漫然と眺めた。
　その時、低い地鳴りのような音を耳にした。横揺れに発展して足元がふらつく。机に積んでいたファイルが崩れた。
　各所で短い悲鳴が上がる。係長は真っ先に机の下に潜り込んだ。
「これって地震？」
　言いながら窓に駆け寄る。見える街並みに変化はなかった。
　室内にアラートが鳴り響く。総務部の全員の目が朝衣に注がれた。
「三折部、出動します」
　敬礼を行い、即座にロッカーへと走る。各種センサーが働いて自動で扉は開いた。背中から入ると勝手に閉まり、乗り込んだ円筒形の物体と一緒に上部の穴に吸い込まれる。
　スーツは途中で分解された。相応しい衣服に再構築されて屋上に出た。
　数歩でサーフボードが浮上した。脇に抱えると周囲を囲んでいた柵が沈んだ。

「良い風が吹いているわ」
　ハイビスカスの髪飾りは高感度センサーの機能を担う。サングラスを掛けることで不可視の存在を炙り出す。
「いくわよ！」
　気合の籠った声で走り出す。
　朝衣は屋上から跳んだ。空中でサーフボードに腹這いになると急浮上した。風を利用して電子を蓄え、極小的な反重力を生み出したのだ。
「良い風に乗ったわ」
　立ち上がるとノーズを自在に動かした。上空から島を見て回る。
「異常なんてないじゃない」
　不満を口にすると突き上げるような風に乗った。高度を上げて滑り降りる。サングラスを装着した。
「今のアレは」
　朝衣はクイックターンを決めた。風を利用して速度を上げる。
「無害の妖精さんね」
　軽く手を振ってサーフボードを別方向に走らせた。
　寝子ヶ浜海岸に大きな波が打ち寄せる。崩れた波頭が白い帯のように見えた。
「こんな波を見せられたら、乗るしかないよね！」
　ノーズを下げて一気に滑降した。

　アラートの件を忘れて朝衣は波と戯れた。

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