コケッコー！　新春☆初夢宝船フェア♪　～茄子編～｜リアクション

コケッコー！　新春☆初夢宝船フェア♪　～茄子編～

　長い髪を丸く編み込んだ天満七星は手際よく赤い振袖に身を包む。四季を表現した花々の柄が艶やかに全身を彩る。
　七星は和室を後にした。長い廊下を楚々として歩き、土間に置かれた赤い鼻緒の草履を履いた。
「いってまいります」
　丁寧な言葉遣いで外に出る。
「暖かいですわ。それに甘い香りが……」
　小首を傾げて歩き出す。飛び石の上を歩いて草履は軽やかな音を立てた。
　門扉の横の潜り戸を抜けると満開の桜が視界を染め上げる。緩やかな風に吹かれて淡い花弁がはらはらと降ってきた。
「……まるで春のようですわ」
　七星は掌を上に向けた。舞い降りた花弁は細かく震え、また空に戻っていった。
　魅せられたようにゆっくりと歩を進める。古い家並みを横目に見て足を止めた。
　民家の庭に青い紫陽花が咲いていた。近づいて軽く触れてみる。
「本物ですわ。でも、先程は桜が……」
　来た道を振り返る。桜の木は家屋に阻まれて見ることはできなかった。
「名残惜しいですが」
　引き返すことなく、歩き始める。間もなくして七星はハンカチを取り出し、首筋に当てた。
　自然に目は空に向かう。大海原のように青い。雲はどこにも見当たらなかった。
「この暑さは――」
　一方を見て声は途切れた。小さな畑の隅に大輪の向日葵が肩を寄せ合うようにして咲いていた。
　驚いた顔で今度は九夜山に目を移す。歩きながら耳に掛かった髪を掻き上げる。蝉の声がはっきりと届いた。
「今は夏ですか」
　返事をするように近くで風鈴が鳴った。横手に目をやると駄菓子屋の軒先に金魚の絵の風鈴が下げられていた。
　季節の変化に七星は笑みを浮かべる。草履を鳴らして軽やかに歩いてゆく。
　九夜山が暮色に包まれる。燃えているような赤は紅葉であった。大気には秋の気配が冷ややかに忍び込む。
「季節を独り占めですわ」
　少し足を速めた。寝子島神社の石段を踏み締めるように上がっていく。
　視界に白い物が混ざる。平らなところで立ち止まり、掌を上に向けた。桜の花弁とは違って一粒の雪は肌に吸い込まれるように溶けてしまった。
　雪は本降りにはならず、目を楽しませた。
「行きましょう」
　柔らかい表情で石段を上がり始める。
　最上段に辿り着いた。赤い鳥居の向こうでは多くの参拝客が行き交う。屋台もちらほらと目に付いた。
　七星は一礼して鳥居を潜り、端の方を歩いた。目にしたリンゴ飴の屋台では足が止まりそうになった。
　軽く頭を振って手水場に立ち寄る。置かれた柄杓で両手を清めて口をすすぐ。使った手は再び清め、柄杓の柄を洗い流して元に戻した。
　七星は遠い社殿を見やる。深呼吸を経て人々の流れに乗った。程なくして和楽器の雅な音に包まれた。
　視界が急に広がった。眼前の白い布には投げ込まれた紙幣が多く見られた。
　七星は事前に用意した賽銭をそっと投げ込む。作法に則り、二礼して二回の拍手を行い、一礼で締めた。最後に手を合わせて祈ると人の流れから抜け出した。
　その足で社務所に向かう。七星は各種のお守りを目にした。お札も売っていた。その中で一つを選び出す。
「破魔矢をください」
　支払いを済ませると笑みが零れた。

「これで一年を無事に過ごせますの」
　破魔矢には絵馬も付いていた。今年の干支が愛らしく描かれている。微笑み掛けると参道の端を通って来た道を引き返す。
「リンゴ飴は……」
　屋台に群がっていた子供達は一斉に離れた。若い店主と目が合う。優しい眼差しに引かれた。
「一つ、ください」
　七星は無邪気な子供となって元気に言った。

　障子が仄明るい。庭園に訪れた早起きの野鳥が美しい声で語り合う。
　広々とした和室で横になっていた七星は自然に瞼を開けた。ぼんやりと天井を眺めた姿で口にする。
「……あの夢は……光陰如箭……今年も……寝子島で、四季を……」
　儚く揺れる声は安らかな寝息へと変わった。

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