【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　２８

「人が多いですね」
　海浜公園を訪れた御巫時子は、肩に乗っているヨタカさん（鷹）に話しかけた。年越しに花火が打ち上がると聞いて、鑑賞に来たのだ。
「……クゥ」
　ヨタカさんが相槌を打ってくれたが、あまり関心はないみたいだった。無表情で正面を向いている。
（最初に花火を見た時は、ヨタカさん、びっくりしてましたね）
　今よりちょっと体が小さい成長途中のヨタカさんが大慌てしていた様子を思い出す。だが、今のヨタカさんはキリっとしている。
（肩に止まってじっとしてるのは、守ってくれるナイトだと思ってくれているからなんですよね）
　そして改めて肩を見遣ると、ヨタカさんの顔がますますキリっとして見える。もしかしたら、花火から時子を守るつもりなのかもしれない。
「母親のように過保護なんですから」
　人差し指で背中を撫でると、ヨタカさんは少し胸を張って、誇らしげに鼻からふん、と息を吐いた。
「さて、花火はまだでしょうか？」
　懐中時計を見ると、開始時刻まで２０分程あった。そのまま待つか、どこかに行こうかと考えた時、ふと思い出すことがあった。
「そういえば、この近くの観覧車がライトアップするみたいですね。ヨタカさんも行ってみますか？」
「キョ！」
　行ってみようか、という答えが返ってくる。花火よりも乗り気そうで、時子は思わず笑みを漏らした。

　観覧車の近くまで行くと、白いダウンジャケットを着た五十嵐尚輝が人混みの中に立っていた。
「尚樹先生」
　声を掛けると、振り返った彼は穏やかに笑った。
「御巫さん」
「観覧車に乗りに来たんですか？」
「いえ、ここからだと花火がよく見えると聞いたので。花火は美しい化学ですからね」
「そうだったんですか」
　先生らしい、と思っていると、尚輝はそこで照れたような笑みを浮かべた。
「さすがに、一人で観覧車に乗るのは恥ずかしいですし、寂しいですからね」
「あ……」
　そんな彼の顔を暫く見詰め、ちょっと俯いて時子は一回こくりと息を飲んだ。一拍後、勇気を出して口を開く。
「尚輝先生、良かったら、一緒に観覧車に乗りませんか？」
　尚輝は「え？」とびっくりした顔をして、それから笑った。
「そうですね。二人と一羽なら、乗りましょうか」
「……はい。二人と一羽で新年を迎えましょう」
「クゥ！」
　順番が来て、大観覧車に乗る。扉が閉まると、一気に静かになった。外の音が小さくなって、より尚輝を意識して鼓動が大きくなる。
　既に席に座っている尚輝をちらりと見る。
「…………」
　思い切って、彼の隣に座ってみる。自然に出来たかと緊張する。
「もうすぐですね」
　尚輝が時計を確認して笑みを浮かべる。その直後、視界が真っ暗になった。年越し直前の束の間の消灯だ。
「…………」
「…………」
「キュ」
　短い時間の筈なのに、随分と長く感じる。闇の中で沈黙している間、息が詰まるような感覚にドキドキした。
　やっとライトがつき、眩い光が二人と一羽を包んでいく。
「５、４……」
　カウントダウンで光が増えていく度に、もうすぐ新年を迎える楽しみでわくわくしてくる。
「３、２、１！」
　夜空が花火に包まれて、そして、一瞬だけ咲いた華は、あっという間に消えていった。
　火が完全に消えて闇が空に広がるまで、時子達はずっと外を見詰めていた。
　やがて、時子と尚輝は顔を見合わせて笑い合った。
「あけましておめでとうございます。御巫さん」
「あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します」
「キョキョキョ！」
「わっ！」
「きゃ！」
　肩に乗っていたヨタカさんがいきなり「おめでとう」と鳴いてびっくりする。
「キョ！」
「……大丈夫です。ヨタカさんを忘れたりしてませんから」
　苦笑しつつ時子は頭を撫でる。ヨタカさんは気持ちよさそうに目を細めた。
（……今年も良い年にしたいですね）

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