夜が始まる｜リアクション

夜が始まる

　風呂から上がると古尾桐子は冷蔵庫に直行した。中からコーヒー牛乳の容器を掴み取る。その場で開けて一気に飲み干した。
「ぷはーッス！　風呂上がりの一杯は最高ッス！」
　パジャマの袖で口元を拭って、寝るッス、と元気な声でリビングを出ていった。

　広大な宇宙が広がっている。数え切れない星々が瞬く中、編隊を組んだ戦闘機が空間を切り裂くように飛んでいた。宇宙空間には無数の機体の残骸が漂う。
　操縦桿を握った桐子は敬礼した。
「仲間の死を無駄にしないッス！」
　コクピットに警戒音が鳴り響く。敵の巨大空母、ネコスターが見えてきた。敵の戦闘機が飛来して瞬く間に陣形を崩された。
「隊長、ここは我々に任せてください！」
　通信を聞いた桐子は一瞬、言葉に詰まった。敵の数は尋常ではない。
「ネコスターはウチに任せるッス！」
　操縦桿を限界まで引いて急加速を始める。進路を阻もうとする敵機は撃墜。仲間の援護もあって厚い包囲網を突破した。
　ネコスターが間近に迫る。突撃する直前、桐子は後方に向かって敬礼した。目尻には光る物があった。
「うちゅーてーこく、覚悟するッス！」
　単機で突っ込む。護衛に当たっていた敵機をレーザー兵器で次々に撃ち落とす。ネコスター本体にも攻撃を加えた。装甲の強度は予想を遥かに超えていた。僅かな破損では突破口にならなかった。
「あれは……」
　桐子は一点を見詰める。敵機の出入りを肉眼で捉えた。
「格納庫ッス！」
　急降下を試みる。上部から隔壁が下り始めた。
「間に合ってみせるッス！」
　更に速度を上げる。
「ここッス！」
　機体を引き上げて水平となった。
　コクピット全体が揺れた。胴体着陸の状態で格納庫に突っ込む。上からは隔壁が迫り、挟まれる寸前で潜り抜けた。
　収められた敵機を押し退けて止まった。
「ここからは白兵戦ッス！」
　計器によって内部の大気を確認。桐子は視界を狭めるヘルメットを外し、コクピットの外に躍り出た。
　早速、敵兵が現れた。白猫の戦闘服は一般兵で知られていた。
「ザコに用はないッス！」
　腰に装着したスティックを手に取る。緑色の光が伸びて剣の形で固定された。
「ウチの邪魔はさせないッスよ！」
　一般兵が集団となって襲い掛かる。桐子は緑色の一閃で切り伏せた。
　赤い髪を激しく揺らし、艦内を駆け巡る。
「どこにいるッスか！」
　声を上げながら艦橋に飛び込んだ。そこには黒猫の戦闘服に身を包んだ人物がいた。
　ヘルメットの奥から呼吸音が聞こえてくる。
「出たッスね！　ニャースペーダー！」
　桐子は緑色の剣で切り掛かる。ニャースペーダーは赤い剣で弾いた。逆に首を狙った攻撃を仕掛けてきた。
　緑色の剣が受け止めて火花が散った。
「負けないッス！」
　力で押し返すと矢継ぎ早に技を繰り出す。全てを完璧に受け切れず、相手の体勢が崩れた。
「必殺のスーパーキリコ斬り！」
　身体の回転を利用して敵の胴体を薙ぐ。初撃が躱されても回転は続き、二撃目で確実に相手の命を刈り取る。
　初撃は跳んで躱された。二撃目は真上からの回転斬りに阻まれ、勢いを完全に止められてしまった。
「こ、この技はまさか、ウルトラとーちゃん斬り！？」
　ニャースペーダーは剣を腰に差した。黒猫のヘルメットに両手を掛けて、すっと脱いだ。
　桐子の目が丸くなる。
「あいむ、ゆあ、ふぁざー」
「ノ――――ッス！」
　声の限りに叫んだ。

　自身の声に驚いたかのように桐子は瞼を開けた。見慣れた天井を目にして急に表情を和らげる。
「ゆめッスか……」
　ゆっくりと上体を起こす。喉を触ると少し汗ばんでいた。
「すごいゆめを見たッス」
　熱い息を吐いた。
　――とーちゃんが借りてきたDVDを一緒に見たからッスかね？
　大きく伸びをすると溌溂とした様子で部屋を出ていった。

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