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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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……アンド・ユア・バード・キャン・シング
年の瀬、師走。
ジャパン全国津々浦々、いずこも同じ多忙な日々であろうが、その際たるもののひとつが役所というものではあるまいか。
寝子島町役場勤務三折部 朝衣もまた、多忙と書いて『カオス』と読む時空に叩き込まれていた。ごく当たり前のように早出残業ざんまいの毎日だ。座れば電話が鳴り立てば窓口に呼ばれる。昼食をとる時間すらない。月あたりの残業時間上限にはとっくに達しているので現在は、絶賛サービス残業タイム突入中という始末。見よこの状況、誰だ公務員をお気楽稼業などと揶揄しているやつは。
ということで消耗しきって、ふらふらしていたところで台風の目というのか、ふと仕事が定時上がりの日ができた。
明日からの仕事のことは考えたくないな――。
水にひたしすぎた切り干し大根みたいな心境で、朝衣はとぼとぼと歩く。
無意識のうちに海に来ていたのはなぜだろう。
演歌の歌詞みたい、とぼんやり思った。
夕暮れの浜は、コートの襟を立てても寒さがしみる。
「春先までサーフィンはお預けよね」
つぶやいたその声に応えるかのように、暗い砂浜になにかが光った。車のヘッドライトを浴びたのだろうか。一瞬だが、たしかに。
なんとなく拾い上げてみればそれは薬瓶だった。手紙入りの。
街灯を探してその下で手紙を開く。
『いくつかこの手紙を流しました。誰かに届いてほしい。私は芋煮 紅美と言います――』
「これって……？」
◆ ◆ ◆
おかしい、と白 真白はスマホの画面を凝視する。
もしかしたら読み落としたのではないかと思って。
だけど間違いなさそうだ。ずっと見つからない。どのゲームにも。
――紅ちゃんのログインが。
数日前からぱたっと絶えてしまった。ほとんど毎日スマホゲームにログインしていたのに。
真白は紅（こと芋煮紅美）といくつかのゲームでフレンド登録をしている。ひとつふたつが欠けるのなら普通だと思う。でもその全部に痕跡がないのだ。いつもならそのうちどれか、いやほとんど全部に、ログイン履歴が見つかるというのに。
気になって送ったメールにも反応がなかった。
そういえば、と口元を押さえて考える。
最後に紅と直接会った日も、彼女はどこか様子が変だった。
必死に記憶の糸をたぐる。
あの日、徹夜明けでうたた寝しつつある真白に紅は語った。息を吸って吐くかのように。世間話であるかのように。
「親がさあ、うるさくてね」
そうだ。紅はそんなことを言っていた。
「あたし、あんまり学校行ってないんだ……ぶっちゃけ引きこもりなんだよ」
真白は、引きこもりをそんなに悪いことだとは思っていない。それも生き方だし、自分の人生を見失ってもがいているのだとしたら、むしろ大切な時間だとすら思う。
だからつい聞き流してしまったのだろうか。
なぜもっとちゃんと聴こうとしなかったのだろう。悔やまれてならない。
きっと彼女にすれば、相当な勇気のいる告白だったはずなのに。
ある日の午前中、あるゲームのログインを最後に、ぷっつりと紅は姿を消した。
まさか。
真白には思い当たるものがあった。
ネットの記事で読んだことがある。社会復帰の美名のもと、引きこもりを無理やり連れ出す『引き出し屋』という業者のことを。
なかでも悪質な業者はときには暴力を使い、自立支援施設という名の私設監獄みたいな場所に対象者を監禁しているという話だ。
もちろん慈善事業ではない。業者は当事者の親から法外な費用をむしり取る。
業者が多用するのは、『引きこもりは犯罪者予備軍』という言葉だという。犯罪者の親になるのではと怯えさせ、黒い沼のような不安につこけむのだ。
拉致同然に連れだされた人たちの、その後についてはあまり知られていない。
いくつか漏れ聞く話では、深い心の傷を負ってより重度の引きこもりに戻ったり、同じ業者が経営する派遣労働者になったりするそうだ。その労働というのも、中間搾取がひどく、最低賃金を平気で下回るようなものだという。
それならまだいい。生きてはいるのだから。
実際には、施設内で自殺した人も少なくないようだ。
こういった業者については一時、テレビのワイドショーなどで『引きこもり問題解決の救世主』として好意的に取り上げられていたらしい。真白はあまりテレビを観ないので詳しくはなかった。ネットの記事も、なんとなく読んだだけだ。
そんなはずはと思いたい。次の休日にはまた『クラン＝G』で、元気な紅に会えるものと信じたい。
でも。
これ……ありえない話じゃないよ！
真白が寝子高内でボランティア募集の貼り紙を見つけたのは、それから間もなくのことだった。
ジャパン全国津々浦々、いずこも同じ多忙な日々であろうが、その際たるもののひとつが役所というものではあるまいか。
寝子島町役場勤務三折部 朝衣もまた、多忙と書いて『カオス』と読む時空に叩き込まれていた。ごく当たり前のように早出残業ざんまいの毎日だ。座れば電話が鳴り立てば窓口に呼ばれる。昼食をとる時間すらない。月あたりの残業時間上限にはとっくに達しているので現在は、絶賛サービス残業タイム突入中という始末。見よこの状況、誰だ公務員をお気楽稼業などと揶揄しているやつは。
ということで消耗しきって、ふらふらしていたところで台風の目というのか、ふと仕事が定時上がりの日ができた。
明日からの仕事のことは考えたくないな――。
水にひたしすぎた切り干し大根みたいな心境で、朝衣はとぼとぼと歩く。
無意識のうちに海に来ていたのはなぜだろう。
演歌の歌詞みたい、とぼんやり思った。
夕暮れの浜は、コートの襟を立てても寒さがしみる。
「春先までサーフィンはお預けよね」
つぶやいたその声に応えるかのように、暗い砂浜になにかが光った。車のヘッドライトを浴びたのだろうか。一瞬だが、たしかに。
なんとなく拾い上げてみればそれは薬瓶だった。手紙入りの。
街灯を探してその下で手紙を開く。
『いくつかこの手紙を流しました。誰かに届いてほしい。私は芋煮 紅美と言います――』
「これって……？」
おかしい、と白 真白はスマホの画面を凝視する。
もしかしたら読み落としたのではないかと思って。
だけど間違いなさそうだ。ずっと見つからない。どのゲームにも。
――紅ちゃんのログインが。
数日前からぱたっと絶えてしまった。ほとんど毎日スマホゲームにログインしていたのに。
真白は紅（こと芋煮紅美）といくつかのゲームでフレンド登録をしている。ひとつふたつが欠けるのなら普通だと思う。でもその全部に痕跡がないのだ。いつもならそのうちどれか、いやほとんど全部に、ログイン履歴が見つかるというのに。
気になって送ったメールにも反応がなかった。
そういえば、と口元を押さえて考える。
最後に紅と直接会った日も、彼女はどこか様子が変だった。
必死に記憶の糸をたぐる。
あの日、徹夜明けでうたた寝しつつある真白に紅は語った。息を吸って吐くかのように。世間話であるかのように。
「親がさあ、うるさくてね」
そうだ。紅はそんなことを言っていた。
「あたし、あんまり学校行ってないんだ……ぶっちゃけ引きこもりなんだよ」
真白は、引きこもりをそんなに悪いことだとは思っていない。それも生き方だし、自分の人生を見失ってもがいているのだとしたら、むしろ大切な時間だとすら思う。
だからつい聞き流してしまったのだろうか。
なぜもっとちゃんと聴こうとしなかったのだろう。悔やまれてならない。
きっと彼女にすれば、相当な勇気のいる告白だったはずなのに。
ある日の午前中、あるゲームのログインを最後に、ぷっつりと紅は姿を消した。
まさか。
真白には思い当たるものがあった。
ネットの記事で読んだことがある。社会復帰の美名のもと、引きこもりを無理やり連れ出す『引き出し屋』という業者のことを。
なかでも悪質な業者はときには暴力を使い、自立支援施設という名の私設監獄みたいな場所に対象者を監禁しているという話だ。
もちろん慈善事業ではない。業者は当事者の親から法外な費用をむしり取る。
業者が多用するのは、『引きこもりは犯罪者予備軍』という言葉だという。犯罪者の親になるのではと怯えさせ、黒い沼のような不安につこけむのだ。
拉致同然に連れだされた人たちの、その後についてはあまり知られていない。
いくつか漏れ聞く話では、深い心の傷を負ってより重度の引きこもりに戻ったり、同じ業者が経営する派遣労働者になったりするそうだ。その労働というのも、中間搾取がひどく、最低賃金を平気で下回るようなものだという。
それならまだいい。生きてはいるのだから。
実際には、施設内で自殺した人も少なくないようだ。
こういった業者については一時、テレビのワイドショーなどで『引きこもり問題解決の救世主』として好意的に取り上げられていたらしい。真白はあまりテレビを観ないので詳しくはなかった。ネットの記事も、なんとなく読んだだけだ。
そんなはずはと思いたい。次の休日にはまた『クラン＝G』で、元気な紅に会えるものと信じたい。
でも。
これ……ありえない話じゃないよ！
真白が寝子高内でボランティア募集の貼り紙を見つけたのは、それから間もなくのことだった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2020年05月03日
- 参加申し込みの期限
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- 2020年05月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2020年05月10日 11時00分
