冬の図書館でゆったりと｜リアクション

冬の図書館でゆったりと

●本の虫

　多岐川玲栖は寝子島図書館にやってきた。
　といっても、アルバイトとはいえ司書として働いている彼にとっては見慣れた建物である。

（利用者としてやってくる、なんて同僚にとってはイヤじゃなければいいんだけど。アタシだったら、喜んでお出迎えしちゃうわね。いいところ見せなきゃ～って、はりきっちゃうわ）

　自分の職場に同僚がプライベートで来ると、なんとなく落ち着かない人もいるだろう。しかし玲栖はかえってやる気が出るタイプらしい。

「まぁ、そんなことはさておいて」

　玲栖は図書館の入り口を抜けると、何を読もうかとあちこち歩き回る。仕事として館内を歩くのと、利用者として歩くのはやはり違う。

（いつもは恋愛小説とか詩集を読むけど、今日は違ったものがいいかもしれないわね）

　文学小説や猫の写真集など、興味の惹かれたものを手にとって確かめる。

（他の利用者さんはどんなのを選んでるのかしら）

　玲栖以外にも、利用者は結構いて、その様子をちらちらを窺う。さすがにじっと見つめるわけにもいかないので、それとなく全体を眺める。

（不審に思われるのも困るものね）

　そう思って館内を歩いていると、利用者の１人がとある棚の前で立ち止まっていた。１冊の本を抱えたまま、それでも棚の前から動かない。まだ何か探しているのか、それとも他の本を読もうか迷っているのか。
　玲栖はゆっくりと近づくと、不自然の無いように声をかける。

「あなた、なにを選んだのかしら～？」
「え？」

　声を掛けられた男性は小さく驚いた。
　図書館で声を掛けられると思わなかったのだろう。玲栖はあくまで気さくに、話を続ける。

「じつはどんな本を読もうか迷っててね」
「な、なるほど」
「ところで、その本は？」
「これは天体の本です」

　男性は表紙を玲栖に見せる。
　おそらく惑星の種類や星座の成り立ちなどが書かれた本だろう。どの本も面白そうで迷っていたと男性は嬉しそうに語った。

（星座……悪くないかも）

　男性がその場を離れてから、玲栖も棚を眺めてみる。天体に関する本が、入門用から専門書まで多様に並んでいる。そのなかから、特に星座に焦点を当てたものを選んだ。
　読書スペースに移動して座ると、さっそく開いて読み始める。

（やっぱり本の匂いっていいわよね……落ち着くわ）

　ペラリペラリと１ページずつ読み進めながら、その感触を楽しむ。

（本を選ぶ人たちを眺めているのも楽しいんだけど、自分にとっての本を選ぶ時間もとても有意義だわ。今日は思う存分、本の虫になるわね～）

　最後まで読み終わると、パタンと閉じた。
　次はどの本を読もうか。そう考えるだけで笑みがこぼれた。

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