冬の図書館でゆったりと｜リアクション

冬の図書館でゆったりと

●本屋巡りと息抜き

　その日、恵御納夏朝は古書店巡りをしていた。
　手にした本を眉間にしわをよせながら確認し、ため息をつきながら元に戻す。そんなことを何軒も繰り返していた。

（なかなか見つからないなぁ……）

　本に囲まれた空間で、彼女の表情は少し険しい。夏朝が本を探す理由は切望する願いに関係している。

（僕と、別人格の夏夜ちゃんが　心身ともに分離して、普通の日々を共に並んで過ごしたい）

　しかし本をいくら探しても決定的な情報に辿り着くことができない。何軒目か分からない古書店を出ると、大きく肩を落とした。
　そのとき、ふと声が聞こえた。話しかけられたのかと思ったが、近くに人影は無い。

（……誰の声？）

　その声の主は分からないが、聞いているうちに不思議と図書館へ行きたくなってくる。

（図書館で、ゆったりと……今日は図書館も探そうかな）

　そう思い、旧市街にある寝子島図書館へ向かった。
　到着して入り口を抜けると、古い本や不思議な本、果てはおまじないの本まで、とにかく色んな本から願いを叶える方法を探す。有力と思われる情報は手持ちの猫さん手帳にメモしていく。

（叶える方法……そう簡単には見つからないかぁ。でも、絶対諦めない……必ず叶えてみせるから……！）

　しかし、ずっと気を張っていると少し休憩したくなる。椅子に深く腰を下ろして、体を休める。ふと視線をさ迷わせると『冬の読書フェア』という催しに気づいた。どうやら冬にまつわる本を集めたコーナーが開設されているようだ。

「冬にまつわる本……見てみようかな」

　息抜きに何か読もうと立ち上がり、そのコーナーへ向かう。冬をテーマにした恋愛小説やクリスマス料理のレシピ集などが並ぶなか、夏朝はまるで運命のように１冊の本を見つけてしまった。

「こ、『コタツで丸くなる猫ちゃん写真集』……！？」

　つい手にすると、近くの机でさっそく開いた。
　そこには多種多様な猫たちがコタツで丸くなる姿が写っている。猫にも個性があって、皆好きなように丸くなっている。

（コタツでぬくぬくする猫さん達……可愛い……！　丸くなる猫さんもいいけどリラックスしてのびのびする猫さんも可愛いんだ……！）

　猫の可愛さを堪能すると幸せそうに息を吐いた。本を戻そうと立ち上がった時、見覚えのある姿が見えた。

（あれ、ののこちゃんだ。声かけてみようかな）

「ののこちゃん、こんにちは」
「あ！　夏朝ちゃん、こんにちは！」
「の、ののこちゃん。声は小さめで……！」
「あ、そうだね……」

　ここは図書館なので静かに過ごすのが大原則である。しかし、ここで会うとは思ってなかったため、少し世間話をする２人。

「ののこちゃんはどんな本を読むの？」
「うーん、いろいろ？　でも字がいっぱいの本はちょっと苦手……」
「なるほど……」

　それを聞きながら、夏朝はののこの読んでいる本に目を向ける。厚みから考えると、中編小説のようだ。

「じゃあ息抜きに、これどうぞ」

　そういって『コタツで丸くなる猫ちゃん写真集』を渡す。

「あとは……登場人物、猫さんで連想してみたらいいんじゃないかな」

　そんなアドバイスを投げかける。

（猫さんワールドを想像してもフツウは崩壊しない、はず……！）

　夏朝はののこに別れを告げると、ふたたび本探しを始めた。ののこは、夏朝から受け取った写真集やアドバイスを元に読書を再開する。
　それからしばらく探したが、決定的な情報は得られなかった。しかしここで過ごす時間は悪くなかった。

（図書館で過ごす一時もいいよね。また、来てみようかな……？）

　夏朝はそう思いながら、図書館を後にした。

このページにイラストを設定する