冬の図書館でゆったりと｜リアクション

冬の図書館でゆったりと

●資料探し

　旅鴉月詠は寝子島図書館へ向かっていた。
　理由は単純明快。図書館を描きたくなったから。

「深く芸術を嗜むには多くの資料が必要なんだよ。そして百聞は一見に如かずなのだ」

　そして徐々に見えてくる図書館。
　図書館という広大な題材を求めて月詠はここまでやってきた。入り口を抜けると、本に囲まれた空間が広がっていた。静謐と木と紙の匂いが月詠の五感に触れる。

（私も蒐集癖があるものだから、これだけ多くの宝に囲まれていると落ち着くというか宝だよ。情報は。記録は）

　そう感じながら職員に描く許可をもらい、２階へ向かう。気になった本を手にして、パラパラとめくる。

（空間もさることながら、こうして本をパラパラめくる感じもいいよね）

　本を棚に戻すと、月詠は野々ののこの姿を見つけた。熱心になにか読んでいるようだが、内容までは分からない。

（静かに読書を嗜むののこは、妙に絵になるなぁ）

　快活な印象が強いののこだが、こういう一面もあるのかと月詠は興味深そうに見つめる。しかし、ののこが段々うとうとしだして、それでも続きを読もうとしている。それもまた彼女らしいと思いながら、月詠は資料を探す。

（折角だし、いろいろ見ておこう）

　図書館を描くうえで、他の建物を知るのは重要だろう。そう判断して、建築物関連の本を中心に目を通す。
　巨大で幻想的な建築物の写真や、どこまでも広がる図書空間、驚くほどの高層ビルなど。また、どうしてこのようになったのか分からない複雑な建築物や超芸術トマソンなど。
　機能美を感じさせるものから設計者の趣味が色濃く反映されたものまで様々だ。

（芸術にも色々あるし、作った本人もよくわかってないのかもしれない）

　それらを一通り読み終えると、月詠はスケッチブックを開いて作業を始める。筆は鉛筆を数種類のみ。天井からさらさらとアタリをつけていき、おおまかな空間をキャンバスに確保する。そこへ本棚を入れていき、本を仕舞っていく。
　全体に馴染むように整えながら本棚の数を増やすと、だんだん図書館らしくなってきた。

（おっと、今使っているこの机と椅子も描いておかねば）

　ふと気づいて机と椅子をよく観察してから、スケッチブックに加える。

（読者は必要かな？　別のページにスケッチして空間を完成させてから考えようか）

　そう思って周囲を見ると、ののこが先ほどと同じ場所に座っていた。しかし読んでいる本を手にしたまま、眠っている。

（読書に疲れたんだろうか。それに静かだからね。眠くなるのも仕方ない）

　そんなことを思いつつ、ののこの様子を観察する。
　誰なのかは後で分からないようにするとして、別のページにスケッチはしておく。ふたたび図書館のページに戻ると、本棚を書き加える。それが整ったら床や窓などを描き、立体感や建物らしさを表現する。
　そして最後に、別ページにスケッチしたののこをモチーフに『読書疲れで眠っている者』を登場させて完成。

　完成した絵は図書館でありながら、どこか活気を感じさせる。
　ここにはきっと何か面白いことがあるんだ、と思わせるだけの魅力がある作品に仕上がった。

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