１２月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の☆ハッピーバースデー

☆１２月１０日

　２年生の朝鳥さゆるは、寝子高に久しぶりに登校した──ほとんど学校に顔を見せない彼女は、たまに思い出したように学校に現れる。
　もうすぐ期末テスト、当日とテスト返却日に出席したらそれで今年は終わりだろうか。
　寝子高の制服が全く似合わない、23、4歳にしか見えない年齢不相応な美貌。
　当然生徒の中では浮いてしまうが、一切意に介する様子はない。
　気だるげに一日の授業をやり過ごした後、放課後の教室にぼんやりひとり残る。
　暫く一人ですごしていると、教室に人の入る気配がした。
（鬱陶しいあの女）
　見るまでもなく、誰かすぐに判った。
「さゆる」
　癇性な微笑をたたえ、歌うように自分の名を呼ぶその声には、揶揄うような悪意に彩られている。

　寝子高では３年生の葉利沢倫理子という名前で通っているMalice。
　さゆるとはまた違った印象の、表面上は年齢よりやや年上の優等生な美人だ。　
　倫理子の第二人格であったMaliceが、夏に身体を乗っ取り数か月。
　今日もMaliceは、さゆるが学校に来ないことに焦れた感情を抱きつつ、来たらどうするかわからなかった。
　二度と会うことのない最愛の人、片篠藍人に執着するさゆる。
　そのさゆるに横恋慕しているMalice。
（きっと自分は歪んだ彼女への愛情を満たそうとする）
　週末ごとに身体を重ねても、心は満たされない。
　放課後。いないだろうと踏んでさゆるの教室に来たら……彼女がいた。
　甘美な喜びが満ちる。

「何のご用ですか、先輩？」
　さゆるは気怠く鬱陶し気に返事をし、椅子から立ち上がり、教室を出ようとする。
　しかしMaliceは机に寄りかかるようにして行く手を阻む。
　そして囁くように語り掛ける。
「ねえ、さゆる。今日は何の日かご存知？」
「……」
「今日はね、私の誕生日」　
「……それで？」
　表情を変えることなくさゆるは尋ねる。
「正確には私の身体の元の持ち主の、誕生日」
　それから数日後に男達に襲われ、絶望から生まれたのがMalice。
　だから倫理子とMaliceの誕生日は数日差がある。
「で、お誕生日だから祝ってほしいわけ？」
「ええ、そうよ」
　臆面もなく言うMalice。
　二人の関係は、友情とか愛情とか……およそ誕生日を祝うような親愛に満ちたものではない。
　だからさゆるは、呆れたように言った。
「……完全に楽しんでるわね？」
「当然よ」
「……わかってるはずよ。あたしの瞳に映るのは……」
「藍人のことでしょ。でも……今日は私の誕生日」
　二人だけの教室には、邪魔する者もない。
「だから……キスだけでいいわ……」
　と言って、いきなりMaliceはさゆるの唇を奪う。

　さゆるは抵抗しなかった。
　誕生日プレゼントのつもりなどではない。
　夜毎行きずりの快楽に溺れるのと同じ。
　気怠くて向こうが求めてきたものを拒絶するだけの気力が無いだけ。
　さゆるには壊れてしまっているという自覚もある。
（誰かに見られたら？　……どうでもいい）
　Maliceの激しいキス。
　流されるままに二人は一つになる。

　窓の外からは明るい生徒のはしゃぎ声。
　場違いな二人は教室で唇を合わせていた。
　何を望んでいるのか、わからぬままに──

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