夢に舞う、緋い鳥｜リアクション

夢に舞う、緋い鳥

　ため息を吐きながら、目を閉ざし意識を集中させる。と、指が僅かに熱くなったような気がし、バチッ！　と派手な音が鳴る。彼女のろっこん『スタンハンド』により電気が発生したのだ。
　小鳥が爆ぜ、煙となって消える。派手な音がする。ラケットよりも効率よく倒せるが、流石に２、３匹纏めてが精いっぱいだ。だが鳥は襲い掛かってくる。
「先輩！！」
　その声で我に返った。僅かに頬を掠めた風の正体は、萌々子が放った衝撃波。ペンで虚空に軌道を記せば起こせる萌々子のろっこん『ペンは剣より出でて剣より強し』である。
「もう、大丈夫なのね」
「はいっ！　お手数おかけしましたっ」
　莉鳥は、僅かに目を細め微笑み、萌々子はボールペンを握って一礼した。

「せ、先輩？！　どうしたんですか、先輩！！」
　雨崎楓香は、突然顔を強張らせ愕然とする志波武道の手を握る。彼の脳裏に過るのは、己の『選択』が間違った悪夢。その焦燥が、喉を焼く痛みに変わる。それでも、彼は乾燥した空気を思いっきり吸った。その焦燥が、瑠奈の歌声に宥められるのを感じながら。
（迷うな！　怯むな！　間違いじゃなかったと言えるよう、今全力を尽くすんだ！）
　――形にならない叫びが、空に響く。武道は自然と左上腕を強く握りしめ気合いをいれ直した。漸く目に戻った生気に、楓香は安堵の息を漏らした。
「よかった……」
「んー、なんか心配かけちゃったね。でも、もう大丈夫だ」
　武道は、ありがとう、と小さく微笑み天を仰ぐ。小さくなった鳥の雨が、矢のように天から降り注ぐ。
「ここからが正念場、かな？　これなら俺のろっこんもいける筈だ！」
　武道は戦守の籠手でガードしながら突いて相手をマヒさせる己のろっこん『スイ・マー』で次々に小鳥を突いていく。追加能力で察するまでもなく煙と化す小鳥を見、武道は手ごたえを感じると同時に僅かに焦った。一羽ずつだと埒が明かない、と。
　一方、　竹箒でまとめて叩き伏せる楓香。彼女は武道から少し離れて竹箒を振り回し、次々に襲い掛かる鳥を叩き落す。
「さすがに小鳥を叩くのは気が引けるけど……っ！　もーっ！　なんなのよクソ鳥！　焼き鳥にしてやるんだから覚悟なさいよね！」
　動き続けなければ鳥に身体を啄まれる。僅かに赤く染まった腕に背筋が引き締まる。
（こっちの方がより効果的か？）
　武道はもう一度刹弦の扇【細雪】を振るって吹雪を起こす。と、巻き込まれた鳥がぼとぼとと落ちて消えた。

　武道が叫んだのと同じ時。鈍い音が離れたところから聞こえた。トラウマに囚われかけた己を律しようと恵御納久隆が自分を殴った音である。彼は過去に、妻と子を守れなかったという傷を抱えており、それが蘇っていたのだ。
（今は、過去の傷に苛まれている場合ではない）
　久隆が頭を振るって意識を再覚醒させると、傍らにしゃがみ込む娘・恵御納夏朝の姿が。彼女は肉球の形をした戦輪を握りしめ、星の装飾がついた大剣を抱きかかえ頭を振るう。
（いやだ、いやだいやだいやだ、こないで、みんなをおそわないでっ）
　耳に聞こえる無数の羽音が心音をかき乱し、眼前で嗤う女性の姿を脳裏に浮かばせる。だが、それじゃだめだ、と夏朝もまた戦輪で自分を傷つけ、痛みで覚醒を促した。
　過去に携わった事件で人食い蠅に仲間共々襲われた記憶が、己を苛んだ。けれど今は。
「夏朝……」
　肩に触れる手で、意識がはっきりとした。今居るのはあの場所ではない。夏朝は父にもう大丈夫、と笑うと鳥へと向き直った。自分たちがトラウマに苛まれている間にも、戦っている者たちはいるのだ。事実、細かくなった鳥が襲い掛かってきている。
　でも、もう大丈夫だ、という自覚が２人にはある。瑠奈の歌声は、確かにこの父娘の心の傷に沁み込み、僅かに癒す。

　――瑠奈の歌声が、ろっこんの風が、意識の淀みを吹き飛ばす。

　歌声に背中を押され、夏朝は戦輪と『重く軽く』を施した大剣・成就薙星を振り回す。禍々しいほどに赤い空の下、煌めく肉球型戦輪と願いを込めた大剣を手足のように操る姿は、仲間への鼓舞にも思え、そんな彼女を庇うかの如く久隆が己の拳やカバンで鳥を叩き落とす。その肉を刺す痛みは激しくも、彼らの心を折るには足りない。また、『拒絶』の力を持つ久隆を狙えばその数だけの鳥が消える。
（なるほど、『拒絶』によりダメージが帰ってくるのか）
　久隆が納得していると、鳥の動きが変わった。小鳥がひと固まりになろうとしている。それを好機ととらえたサキリは、集まったところで芋のようなモノを投げ込んだ。

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夢に舞う、緋い鳥

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