夢に舞う、緋い鳥｜リアクション

夢に舞う、緋い鳥

転：歌よ、戦人を支え給え、カラスよ、勝利を導き給え

　ぐるり、と天で輪を描く鳥が、歌う。
　ぐるり、ぐるり、と戦う者たちを嘲笑う。

「……？！」
　八神修は、頭を何かで殴られたような衝撃に見舞われる。その痛みで僅かに目を白黒させたが、どうにか堪える。だが、幾人かの顔色がひどく悪くなったり、うめき声が聞こえた。
「あの歌にはトラウマを蘇らせる効果がある！」
　そう叫んだのは、山田勘三郎。彼はカラスに変身して鳥を襲った際、至近距離でその声を食らったのだ。その時は声の大きさの所為で耳がほんのわずかな時間音が聞こえなくなったが、その際悟ったらしい。
　歌の影響を受けた者たちの苦しみが、赤い空に滲む。サキリ・デイジーカッターは周囲で起こった事と声の関連性を感じ取り、ぐっ、と手を握りしめる。
（この歌声の所為……だと？！）
僅かに顔が引きつったのは、己もまた影響をうけているのだろうか？　彼は一瞬だけ痛んだ頭を振るう。だが、鳥は歌いながら急降下！　その身体をもって強風を叩きつける。サキリは舌打ちをし、蛇腹剣を手にろっこんを発動させて切り付ける。勘三郎はもう一度大声でカラスの鳴き真似をし、ろっこんでカラスに変化する。
「どうするんだ？！」
　サキリの問い答えず、勘三郎は気流を避けて飛ぶ。そして目指すは……カラスの鼻の孔！
（さぁ、どう出る？）
　修は痛んだ頭を抑えながら２人を見つめる。策は既に頭の中で組み立てられた。あとはこれを如何に実行するか、である。
（布石は打った。あとはタイミングだ）
　注意深く鳥を観察し、いかに湖の跡へと誘導しようかと考えていると、目の前で鳥の姿がぼやける。バードストライクよろしく鼻の孔に入り込んだばかりの勘三郎は変身を解くのをやめ、慌てて地を目指す。
（嘘だろ？！　なんつータイミングで分裂しやがるんだ！！）
　勘三郎は、嫌な予感のままに大声で鳴いた。修は麺棒と鍋蓋を構え、分裂攻撃に備える。
「嫌いじゃないな、そういう流れ」
　鈍い音を立てて鍋蓋にぶつかる鳥。どうにか麺棒で叩くも、追いつかず傷を負う。それはサキリも同じである。だが、彼には秘策があった。
（また、一塊になるはずだ。ならば）
　サキリは虎視眈々とその瞬間を狙いながら蛇腹剣を振るう。そして、勘三郎は急速に腹が減るのを堪えながら己に襲い掛かる小鳥を引き連れて舞う。モップを振るって落とそうと考えていたが、地面へ向かう間にも多くの小鳥が群がって離れないのだ。
（いいぞ、いいぞ。そのままついてこい！）
　彼はそれらを抱き込むとそのまま変身を解き、地面へと……！！

（くぅぅっ！）
　フライパンで湖の跡を掘っていた夢宮瑠奈は、思わず耳を塞いだ。その音が、声が、不快な物を蘇らせる。だが、彼女は立ち上がり、すぅ、と息を吸った。
（この歌で、流れを変えることが出来るのならば）

　――それがあたしのアイデンティティで、ろっこんだから。

　瑠奈は歌う。大切な仲間の為に。同時にぱちっ、とウインク１つ。届け、と広がる風が、歌声が、仲間たちの心に触れる。この風で鳥が起こす強風を相殺し、皆がこの場所から落ちなければ、戦いの助けになれば。
　瑠奈は鳥がぼやけたのを見、歌いながら目を凝らす。これから何が起こるのか、どう対処するべきか考えながら。そして、ののこの事を考えながら。
（あたしはこの女子高生な神様が好き。いつかいなくなるとしても、それは『今』じゃない）

――だからあたしは、

（音量を上げれば）
　愛猫萌々子は耳にはめていたイヤホンから音が漏れるほど、携帯音楽プレイヤーの音量を上げた。嫌な予感がし、その鳥の歌声を防ごうとしたのだ。けれども、馴染の威圧感か彼女の脳裏を揺さぶった。
「えっ、あっ……おとうさま……」
　厳しい父親の事を思い出し、身体が縮こまってしまう萌々子はその場に蹲ってしまう。その拍子にイヤホンが外れかけた。
「大丈夫よ、ここにはいないわ」
何かを悟り、椎井莉鳥がそっと声をかける。莉鳥は震える萌々子の手を握り、もう一度「大丈夫」と囁いた。同時に聞こえてくる、瑠奈の歌声。莉鳥は天を舞う鳥を睨みつける。
（これが、あの鳥の作戦だというの？）
　萌々子が瑠奈の歌に促されるように深呼吸を繰り返し、トラウマと戦っている間にも鳥が分裂していくのが見えた。莉鳥は萌々子を庇う様に立つと手にしたラクロスのラケットで飛んできた小鳥を叩く。叩く、叩く、叩く。叩きながらその群れの多さに舌を巻いた。
（でも、これじゃいずれじり貧になるわ。ラケットだって何度も叩いていればそのうち折れてしまう）

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夢に舞う、緋い鳥

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