夢に舞う、緋い鳥｜リアクション

夢に舞う、緋い鳥

　勘三郎が、その場に倒れ込む。彼は鳥の体内でのあれこれとろっこんの所為で空腹と疲労に喘いでいた。修がすかさず残ったクッキーを食べさせようとするが、手を伸ばそうとしても上がらない。
「山田、しっかりしろ！」
　意識が薄れる。まだ戦いは終わっていないのに、と焦燥だけが勘三郎に募る。
（ここで、俺は……）

　一方、久隆は傷ついた身体を引きずるようにして、地面に横たわる鳥の頭に近づいていた。彼の勘では『まだ』戦いは終わっていない。鳥は、気絶しているだけだ、と。
（あの歌は危険だ）
　彼は妻から頼まれて買っていた練りわさび（上質）の封を開けると徐に口の中に全部絞り入れた。だが、これだけでは効果がないのだろう。鳥は僅かに身じろぎしただけだ。
（喉に流し込まねば）
　久隆は動いた。チューブを喉の奥へと投げ入れ、嘴を閉ざし、ぐっ、と首を上げる。

　――同時におこる振動。

「お父さん！！」「こっちに！！」
　夏朝と楓香が久隆に駆け寄り、避難しようと手を引く。だが、それよりも早くほどける鳥の身体。だが、その一部（主に喉部分）が煙になって消える。
（山田の決死行と、恵御納のお父さんが入れた何かが声帯付近を破壊したんだ）
　蛇腹剣で小鳥をけん制しつつサキリが冷静に判断する。もう炸裂イモは無いが、鳥へのダメージもかなり積み重なっているのだろう、幾分か弱まっている気がした。
　しかし、それは、自分にも言える事。サキリは内心で歯噛みした。ろっこんの多用で、ふらついているのだ。
　それは修をはじめとする『もれいび』達にも言える。夏朝もへとへとになっていたし、瑠奈もアイドルとしての信念だけで歌っている状態だ。勘三郎に至っては空腹と疲労でもう戦えないだろう。
「こっちだ！」
　久隆が通勤鞄を振り回し、時に己の身を盾にして夏朝と楓香を庇う。啄まれ激しい痛みに見舞われても、久隆は動じない。
（だが、そろそろ限界か）
　砂と強風に嬲られ、鳥に何度もつつかれ、ダメージが溜まってきている。だが、それに応じて鳥にもダメージが入り、小鳥は消えていく。
「くっ、もう少しだ！」
「あなたはこっちに！」
　動けなくなった勘三郎を庇う武道と莉鳥は、向かってくる小鳥をそれぞれのろっこんで消滅させる。瑠奈がウインクして起こる風に乗せられ、寄せられた分は楓香の竹箒や夏朝の大剣によって潰される。慌てて再び身体を纏めようとする鳥の姿を見、武道は眼鏡を正しながら決着の時が近づいてきている予感を覚える。
（鳥も余裕がなくなってきているんだな）
　固まり、３分の１ほどの大きさとなった鳥が、修たち目掛け落ちてくる。だが、もう、脅威とは言えないほどの大きさだ。
「これ以上戦闘を引っ張るな！　とどめを！！」
　修が叫ぶ。夏朝が嘴目掛けねこさんシールを飛ばし、三度身体を重くする。と、萌々子がペンを虚空に走らせ衝撃波で翼を捥ぐ。
「最大出力」
　莉鳥が鳥の首を狙い、指先に力を入れてろっこん発動。バチィ！　と激しい音を立てて首から煙が上がる。同時に紅の閃光が走り、赤い空にサキリが、赤い残光の蛇腹剣が踊る。彼もまた、力を込めた一撃を放ったのだ。
「なっ！？」
　だが、その刃はギリギリのところで首を飛ばさなかった。首が半分以上切れているのにも関わらずもがく鳥。サキリはぎっ、と鳥を睨みつけ再び切り付けようとするが疲労がたたり力を出し切れない。
「サキリ君！」「先輩！」
　そこに響く夏朝と萌々子の声。萌々子が衝撃波を利用し舞い上がり、思いっきり首目掛け虚空を切る。夏朝も改めて鳥の頭を重くする。
「これで決める！」
　サキリは全身全霊をかけて蛇腹剣を振るった。

「……暫くの間鶏肉とか卵は食べたくないわ」

　莉鳥がそう呟いた時、鳥の首が落ちる。同時に、ののこを包んでいた結界が割れた。音もなくゆっくり落ちて来たののこを久隆が受け止め、膝をついた。
「さよなら、緋い鳥」
　父を支えながら、鳥のいた場所を見つめ夏朝は呟いた。

このページにイラストを設定する