占い少女のクリスマス｜リアクション

占い少女のクリスマス

◆氷ちゅー期の行方

　寝子島の空は厚い雲のせいでどんよりと曇っていた。猫パーカーの少女――中学生ほどだろうか。彼女は旧市街を小走りに、噂の喫茶店に入っていった。その片隅に、水色の髪をした少女が座っている。あれが噂の占い師、イムイムだろうと推測した少女は、そっと挨拶した。

「お？　初めましてなのだ！　イムイムはイムイムなのだ。よろしくなのだ」
「初めまして……穂現まう、です」

　まうは彼女の向かいに座り、紅茶とモンブランを振る舞った。自分はケーキ一つ。今日払えるのはここまでだった。そもそも家庭事情が謎なまう、どこでどう小遣いを得ているかも謎である……。

「で、どうしたのだ？」
「そうだ、占ってほしい事……。占ってほしいのは、『猫鳴館の未来』」
「……うん？　なんなのだそれ？」
「……知らない？　この島の学校の一つ、寝子島高校の寮…住居の一つで、昔からある古い古い建物……皆のおかげで、今までもってる……」

　まうは俯いて唇を震わせた。

「けど、最近は『氷ちゅー期』なるものが近くて……ねずみが沢山どっかにいるみたいで、大変な事になりそうで怖いな。食べつくされて壊れないよう、対処しないと、な所……」

　そう言いながらまうは一枚の写真を取り出した。どこか山の中に在る、よく言えばノスタルジック、悪く言えばボロボロの建物が写っている。おなじみ猫鳴館だ。写真の隅、目を凝らすとネズミが一匹ピースしているのが見える。

「写真は……こんな感じ。難しいなら、『まうの住処の未来』みたいな感じで……いける？」

　それを最後まで聞くとイムイムはゴクリとモンブランを飲み込み、なんだか神妙な面持ちになり、懐からカードを取り出しては机の上に並べていく。まうがカードを繰る彼女の手を眺めていると、イムイムは突然腕を組み、唸り始めた。

「わかったのだ！　早速占っていくのだ！　んむー……んむむむむー……」

　イムイムは何か天啓でも得たかのようにピンと立ち上がり、すぐさま座ってカードを開き始めた。彼女はそのうちの二つ、皇帝の描かれたカードと杯を掲げた男の描かれたカードを指し口を開いた。

「このカードの通り……今のところ良い未来しか見えてないのだ。猫鳴館は写真通りなのだ」
「……よかった」

　結果をメモするまうをホッとした様子で見つつ、イムイムは続いて逆さまの、金貨に囲まれた女性の絵柄のカードを指してから、指を組んだ。

「……ただ、マウマウの周囲はどこか不安そうだったのだ。対処法は落ち着いて構えていることだが……誰かに頼んで駆除してもらうのもアリだと思うのだ。寮というけど……他に住んでいる人はいるか？　いるなら相談してみるといいのだ」
「そっか……うん、少し考えてみる」

　それもメモして、まうはケーキを食べきって立ち上がった。

「ありがとう、イムイムさん。これからの季節は寒いから……体調崩さないように、気を付けて、ね。」
「どういたしましてなのだ！」

　一礼して去っていく彼女に手を振ってから、視界の端に見えた人影に向き直る。

「お？　次の人、どうぞなのだー」

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