試作品「空中飛行シューズ」｜リアクション

試作品「空中飛行シューズ」

●空中演舞

　ある日曜日の午後。
　篠原翠響は寝子ヶ浜海岸を散歩していた。今日は新体操の練習がないので、久しぶりにのんびりと過ごしている。明るい日差しに少し冷えた風が心地よい。そんななか、ふと声を掛けられた。

「そこのお嬢さん」

　ふと、翠響はそのほうに振り返る。
　そこにはメガネに白衣を着た男性が立っていた。その人物は自称・発明家と名乗った。そして手に持ったものを翠響に差し出す。

「この靴を履いてはくれないか？　名付けて『空中飛行シューズ』だ！」

　男性はこの靴によって空を飛ぶことができるといって、翠響に迫ってくる。靴の見た目は、スプリングで跳ねるように飛ぶ猫型の靴といった感じ。
　しかし怪しいことこの上ない。だが、男性も簡単に引き下がろうとしない。

「あたしは別に……」
「まぁそういわずに」

　男性は引き下がる様子がなく、まったく埒が明かない。結局、押し付けられる形で翠響はその靴を受け取った。

（空中飛行ができるとか何とか言ってたけど）

　真偽不明なうえに、受け取った経緯がこれでは怪しさが募るばかり。しかし気になるのも、また事実だった。

（まぁ、履いてみるだけなら……）

　そう思って、翠響は自分の靴を脱いで、その靴に履き替えた。履いた感触はスプリングが邪魔な点を除けば、案外普通だった。
　それでも何とか立って、軽く砂浜を蹴ってみる。スプリングに砂が引っかかるのか、少しだけ違和感がある。

（やっぱり脱ごうかな）

　そう思って靴に手を伸ばそうとしたら、靴底に何かの力が働いているのを感じた。砂を蹴ったときにスイッチが入ったのだろうか。そのまま翠響の体を持ち上げるように上昇を始めた。

「え？　ちょっとマジ！？」

　靴を脱ごうと中途半端にかがんだ状態からの急な上昇。不自然な体勢で急に靴が起動してしまい、バランスを崩す。

「……ほっ！」

　しかし、そこはさすがに新体操の選手だけあって、すぐにバランスを取り戻す。靴底から出ている力を考えて、少しずつ空中を歩く。先ほどまで蹴っていた砂に触れない位置に立っているのは不思議だった。
　最初のうちは単にその辺りを動き回る程度だったが、靴の扱いが分かってくると空中で新体操の演技を披露する。これはなかなか新鮮な感覚だった。
　自分の得意なクラブの技を中心にやっていた。しかし飽き足りなくなってきて、もっと色々できるのではないかと考える。空中ならではのアクロバティックな動きをいくつも試してみる。

「結構おもしろいかも！」

　だんだん楽しくなってきて、靴のエネルギーが尽きるまで遊び倒した。

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