試作品「空中飛行シューズ」｜リアクション

試作品「空中飛行シューズ」

●人助け

　響蒼留人は外で歩いていると、自称・発明家と名乗る男性に出会った。嫌な予感がして、なんとか逃げようと試みたがうまくいかない。

「このシューズを履いてくれるだけでいいから！」

　結局、男性に押し付けられるように靴を受け取った。デザインはスプリングで跳ねるように飛ぶ、猫型の代物。

（なんで俺なんだよ？　こういうのはあいつが履けばいいのに……）

　脳内にとある人物がぱっと浮かぶ。
　持って帰って履かせてやろうかと思っていると、空に久保田美和先生の姿が見えた。一瞬、何が起こっているのか分からなかった。久保田先生は慌てた様子で、今にもどこかにぶつかりそうだ。

「大丈夫……じゃなさそうだな。先生！　落ち着いて！」

　蒼留人はできるだけ大きな声で話しかけた。しかしその声は届いていないようだ。

「見ちゃいられねえ……仕方ない。助けるか」

　覚悟を決めて、蒼留人はシューズを履いてその場で跳ねてみる。

「うわっ、こりゃ難しいな」

　何かの弾みでスイッチが起動して、浮遊する。
　しかしバランスは取りにくく、着地はスプリング部分なので、どうしても不安定になる。

「だが、精神統一して……」

　蒼留人は大きく息を吸って意識を集中する。そして空を歩き出す。

「自転車やスキーみたいなもんだ」

　どうにか移動方法を覚えて、久保田先生の近くまで行く。おそらく先生も例の発明家が作った靴を履いているのだろう。

「先生、落ち着いて！」
「蒼留人君！？」

　自分と同じく空を進む蒼留人に驚く久保田先生。
　思わずよそ見して木にぶつかりかけたが、蒼留人が横にゆっくり押して回避した。

「先生落ち着いて。体をまっすぐにしてください」
「ま、まっすぐ？」

　久保田先生は慌てるあまり、手足をばたばたと動かしている。そのせいで余計にバランスがおかしくなっている。

「はい。俺の真似をしてください。こうです」
「わかったわ。こ、こう？」

　蒼留人の姿勢を真似て、ようやく飛行が落ち着いてきた。
　そうすると心に余裕が出てきたのか、久保田先生自身も落ち着いてくる。

（ふぅ、なんとかなったか）

　それから久保田先生が無事に着地するのを見届けてから別れた。すると今度は黒崎俊介先生がふわふわと漂っている。

（……行くか）

　放っておくわけにもいかないので、黒崎先生に近づいていく。蒼留人自身は、靴の操作にもう慣れたので安全に距離を詰める。

「先生、大丈夫ですよ。自転車に乗るようなものですよ」
「自転車、か」

　蒼留人の指示に従って、黒崎先生もそれなりに動けるようになった。とりあえず事故につながることは無いだろう。黒崎先生に別れを告げて、そっと地面に降りた。
　そしてすぐに靴を履き替える。

「発明家が靴を取りに来たら文句言ってやる。来なかったら……あいつに履かせるか」

　とんだトラブルを引き起こした靴を抱えて、蒼留人は帰路についた。

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