試作品「空中飛行シューズ」｜リアクション

試作品「空中飛行シューズ」

●それはまるで創作物語のように

　ある日の夕方。
　羽生碧南は部活を終えて桜花寮へ帰る途中だった。
　そこで自称・発明家と名乗る男性と出会った。見るからに怪しくて、碧南はこっそり避けようとしたが運悪く捕まってしまった。

「君は運動能力が高そうだ！　ぜひこの『空中飛行シューズ』を使ってほしい！　これで空を飛ぼう！」

　そういって男性は靴を差し出した。
　見た目は碧南が普段履いているバスケットシューズとさして変わらない。しかし怪しさが拭えないので、なんとか断ろうとした。ただ残念ながら押し付けられてしまい、そのまま寮の自室に持ち帰った。
　部屋で改めて見てみるが、やはり見た目はただの靴だ。

（こんなので空飛べるの？）

　そう思ったものの、結局その日は履かなかった。

　翌日。
　碧南は少し起きるのが遅くなり、慌てて身支度を整える。

「急がないと！」

　バタバタと音を立てて自室を出た。このとき、彼女は気づかなかった。
　普段履いているバスケットシューズと昨日押し付けられた靴を取り違えたことに。

　学校に遅刻することなく到着すると、その日の授業を順当にこなした。
　そして放課後になりバスケ部の練習が始まる。今日の内容は２チームに分かれての模擬試合。５人で作戦を話し合い、試合展開を検討する。作戦タイムが終了すると、全員でコートに向かった。
　
　ピッという笛の合図と同時に試合開始。
　さっそく相手からボールを奪うと、ドリブルとパスを組み合わせながら敵のゴール目掛けて進む。味方と自分の位置を確認して、シュートの機会をうかがう。

（これはチャンス！）

　そう思い、ゴールの近くまで走り出す。
　味方はその動きに合わせて、碧南にパスを出す。ここでダンクを決めようと床と蹴った。

　そのときだった。靴のスイッチが入り、体が宙に浮いた。

（！？）

　碧南は驚きつつも目の前のゴールになんとかボールを押し込もうと腕を掲げる。その勢いのまま、豪快なダンクシュートを決めた。
　まるでバスケ漫画かアニメのような動きだったので、碧南だけでなく周りの選手たちも唖然としている。

（もしかして、この靴のせい？）

　よくよく観察すると、普段履いているシューズと微妙に違う。碧南は朝のことをふと思い出した。

（きっと慌てて間違えたんだ）

　靴の効果や周りの反応に困惑するが、それを内心に押し隠した。その後の模擬試合も華麗なダンクを何度も決めた。
　漫画のような豪快なダンクはなかなか気分が爽快だった。模擬試合が終わる頃には靴の機能が停止しており、ただの履物になっていた。
　それでもあのダンクの感触は忘れないだろう。

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