九夜山で紅葉狩り｜リアクション

九夜山で紅葉狩り

　４　

「空気が澄んでておいしいわね」
　センター試験を１ヶ月半後に控えた佐和崎紗月と初瀬川理緒は、九夜山にデートに来ていた。紗月が誘ったのだが、理緒も貴重な自由時間を２人で楽しむことを選んでくれた。
（理緒ちゃんはまだ勉強しないといけないけど、グラビアの仕事がないお休みは珍しいから……）
　今日だけは勉強のことを忘れて、自然の中でリフレッシュしよう。
「うん、すごく気持ちいいね」
　自然な笑顔で理緒は応えた。今のところ、彼女の成績は木天蓼大学の合格圏に入っている。写真学科に入ると聞いた時に抱いた不安は紗月自身の問題だから置いておくとして。
（いままで割とチャランポランだった理緒ちゃんが、意外に将来のことを真剣に考えていたのはちょっと驚きだったわ……）
　否、そんな風に考えるのは失礼だ。理緒はこの１年ですっかり成長した。
（私は……相変わらず泣き虫だし人見知りも激しいし……。なんだか置いてけぼりを喰らいそうな気がする）
　いつの間にか物思いに思考の全てを使っていて、景色も恋人の言葉も頭に入っていなかった紗月は自分を呼ぶ理緒の声でハッとした。
「紗月？　どうしたの？」
　理緒は、不思議そうに紗月を覗き見てきていた。
「なんでもないよ」
　いつもと同じように笑って見せると、理緒は「そっか」と安心したようだった。
（疲れちゃったかと思ったけど、まだ大丈夫みたいだね）
　と、理緒は体力が少ない紗月を心配していた。
（でも、少しゆっくり歩くようにしよう）
　気を使いながら歩くと、紗月も自然と歩みを緩めた。
「紅葉も綺麗だけど……理緒ちゃんの服装も可愛いわ。色を今日に合わせてきたのね」
　柔らかな笑みを浮かべた彼女にそう言われ、理緒は気付いてもらえて嬉しくなる。
「そう。山歩きの恰好は可愛い感じになりにくいけど、色を紅葉に合わせて、パンツのデザインにも気を使ったの。でも、紗月も綺麗よ。紅葉と紗月とどっちが綺麗かって聞かれたら、迷わず紗月の方が綺麗だって即答するよ」
「理緒ちゃん……」
　紗月は驚きと嬉しさを露わに赤面した。その表情がたまらなく可愛くて、理緒の胸は高まった。
「紗月……」
　思わず抱き着きそうになったがそこはグッと我慢して止めていた歩みを再開する。そのうち、すぐに焼き芋と判る美味しそうな匂いが漂ってきた。落ち葉焚きの周りで、人々が新聞紙に包まれた焼き芋を食べている。
（う……）
　本能的に食べたくなったけれど、グラビアアイドル的に食べすぎるとヤバい。
「そうだ、紗月、焼き芋、半分こしよ」
「ええ、いいわよ」
　紗月は笑って了承してくれた。おじさんから一つを貰い、半分にする。
「ん、美味し」
　早速一口食べてしまい、クレープを分け合う時のように、つい口をつけた方を渡してしまった。それに気付かないまま、紗月は焼き芋を食べる。
「！　あ……間接キス、しちゃった……」
　一拍遅れてから赤面する彼女はとても愛しく、焼き芋が更に美味しく感じられる。甘くてホクホクしていて、あっという間に半分を食べきってしまった。
「もう１本……いいよね？」
　もの足りなさを感じていることに恥ずかしさを覚えながら提案してみる。
「うん、やっぱり半分じゃ少ないわよね」
　今度は紗月が焼き芋を貰ってきてくれた。結果的に１本食べてしまったが、こうして分け合うと、普通に１人で１本丸々食べるより美味しく感じられる。
（来年、紅葉狩りするときは花の女子大生……かな？）
　理緒は、カメラを持って紅葉の下を歩く自分を想像していた。もちろん、隣には紗月を連れて――

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