九夜山で紅葉狩り｜リアクション

九夜山で紅葉狩り

　３　

　デートに訪れた城山水樹とヒュー・ヒューバートは、山登りに適した服装で九夜山を楽しんでいた。ここに来るのは１０月以来だ。
「紅葉もこれで見納めね」
「散ってしまう前に来られて良かったな」
　ヒューは水樹と恋人繋ぎをして山道を歩く。同じ場所を通っている筈なのに、前に来た時とは違う印象なのが何だか不思議だ。まだ暖かかったあの時と比べて結構冷え込んでいるが、その分、空気が澄んでいて心地が良い。
「……本当にとても綺麗」
　そして、水樹も心が浄化されていくのを感じていた。間近に迫る冬化粧を前に、九夜山が艶やかな姿を見せているようだ。木々達の生き様を肌で感じる。
（気温は低いけど、気持ちいいわ）
　それに、絡めたヒューの指から伝わる温もりは、心なしか熱く感じられたりもする。彼の顔を見たくて横を向くと、彼もちょうどこちらを見ていたようで目が合った。
「……！」
　驚いたヒューが瞬時に頬を赤くして目を反らす。反射的に、水樹も同じ行動を取っていた。
　昨年のクリスマスに出会ってから１１か月が経つ。もう何度も、手をつなぐどころか身体さえ重ねているのに、未だに視線が合うと互いにドキドキして赤面するような少女漫画みたいな恋が続いている。
「あ、歩いてたら暑くなっちゃったわね。展望台に着いたら冷たいものでも飲まない？」
「そうだね、賛成だ」
　照れ隠しに適当なことを言うと、ヒューも同意してくれた。お互いに、先程よりも手が熱くなっている。
（寒いのに、冷たい飲み物はなかったかな……ちょっと不自然だったかも）
（熱くなった手を誤魔化そうとつい賛成したけど、温かいものが飲みたいな……）
　水樹と同様にヒューも動揺していて、だが、こういうことはよくある為、落ち着いてきたところで２人は笑い合った。
「やっぱり温かいものにしよっか」
「そうしよう。今は照れて熱くなっただけなんだろ？」
「え…………ちょっと、もう！　先に意識したのはそっちでしょ！」
　ぷりぷりと抗議していても水樹は本心では楽しくて、じゃれあいながら、さくさくと紅葉を踏みしめて歩く。ふと油断していると隣からシャッターの音がした。カメラ越しにヒューが笑っている。
「やだ、よしてよー！！」
　素の表情を撮られたのが恥ずかしく、水樹は逃げるヒューを追いかけた。何度も躱されたがついに追い付き、次は紅葉の下でプロとしての顔で撮ってもらう。それから展望台に行き、高いところから燃えるように色鮮やかな紅葉を鑑賞した。そこで、広場の方から煙が立っているのが見えて水樹は指差す。
「ねえ、あれ何かしら」
「行ってみようか」

「焼き芋を作っているみたいよ」
「ちょうどお腹がすいたし、貰おうか」
　近くに行くと、焼き芋はまだ完成していなかった。周りには家族連れや恋人同士、友人同士等、多くの人々が集まっていた。２人も焚き火に当たって暖を取る。
（熱で少し汗ばむくらいだな……）
　ヒューが少し離れようかと思ったところで、焼け具合を確認していた男性が「うん、焼けたな」と焼き芋を渡してくれた。
「１本でいいのか？」
「ああ。２人で分けるからな」
　火から離れてベンチに座り、焼き芋を分ける。うまく半分に出来なかったが、水樹が小さい方を選んだので大きい方を貰った。
「ありがとう。わっ、熱々ね。甘くて美味しい……」
「丁度いい具合に焼けてるな。ホクホク感も甘味もバランスが取れている」
　焼き芋の味も良いが、それを食べている水樹が可愛くて、ヒューは写真を撮りたくなった。膝に焼き芋を置き、カメラを構える。
「きゃっ！　また、もうー！」
　穏やかな笑みを浮かべたヒューを、水樹はばしん、と軽く叩く。
（……好きな人とこんな風に過ごす瞬間って、とても幸せね……）
　それはそれとして、写真はちゃんとチェックさせてもらおう。

このページにイラストを設定する