九夜山で紅葉狩り｜リアクション

九夜山で紅葉狩り

　２

　そろそろ葉も散りそうな秋の頃、北条冬華は四季をゆっくりと楽しもうと家を出た。住んでいるシーサイドタウンのアパートからも九夜山の紅葉は見えるが、遠くで観るのと近くで観るのとでは趣が違う。
　今日の冬華はセーターにスカートの上からコートを着て、足にはストッキングを履いてしっかりと防寒対策をしている。
（一応、山ですから少し肌寒いかもしれませんからね）
　暖かかったらコートは脱いでいこうと思ったが、山に行く前から割と寒かったのでそのまま着ていくことにした。道行く人達にも厚着が多い。
（何か食べ物を買って行きましょうか）
　紅葉を見ながらお弁当を食べようと、スーパーに立ち寄る。すると、自動ドアを開ける前から良い匂いが鼻腔をくすぐった。
（これは……）
　焼き芋の匂いだ。少し焦げた皮と、甘い身の匂い。入口に置かれた機械の中で焼けているそれを、冬華は自然と手に取っていた。

（とても甘くて、舌に絡みつくのがいいですね……）
　一緒に買ったお茶と合わせて、ベンチに座って焼き芋を食べる。山に来るまでに少々冷めてしまったが、充分に美味しい。冬華の好きなねっとり系のさつま芋だった。
（うーん。とても幸せです。食欲の秋、ですね……）
　紅葉を楽しみながら焼き芋を味わっていると、スマートフォンで紅葉を撮っていた白真白と目が合った。
「あれ？　偶然だね！」
　枯葉を踏みつつ、真白が近付いてくる。
「そうですね。紅葉狩りですか？」
「うん。いやー、ちょっとカードゲームのデッキ構築に行き詰まちゃってね。息抜き息抜き」
　スマートフォンを持った手を降ろし、真白は食べかけの焼き芋を見た。
「美味しそうだね、何だかお腹が空いてきたなあ」
「上に期間限定で売店があるらしいですよ。さっき通った人達が言っていました」
「売店？　じゃあちょっと行ってみようかな」
　真白は山の上を見て、冬華に手を振って離れていった。

　冬華と別れてからも、真白はしばらく美しく色付いた紅葉と銀杏をスマートフォンで撮影した。アップで撮ってみたり、幹から全体が写るように撮ってみたり。
「色鮮やかできれいだなぁ。紅葉も銀杏もきれいに染まってて……」
　まるでゲームか漫画の世界みたいに思える。
「こういう場所って本当にあるんだなぁ。あれ？　この匂いは……」
　鼻をくんくんさせた真白は、上に進んでいく。食べ物の匂いでもあるといえばあるが、これは――
「えっとこっちの方から……あ、やっぱり！」
　落ち葉焚きの匂いだった。芋も焼かれていたが、まだ焼き始めたばかりでそこまで香りは強くない。
（煙の匂いがしたからもしかしてって思ったんだよね）
　だが、真白は落ち葉焚き自体に惹かれて近付いた。手をかざすと、ほっと肩の力が抜けた。
「ふひー、あったかいなぁ」
　何でか知らないけれど、火を見ていると何だか和む。
（……あ、そうだ！）
　リラックスしたおかげか、行き詰っていたカードゲームのデッキ構築案が閃く。
（あのカードを使えばあーいう風につながるから……コストも足りるし……うん！　いい考えが思いついたよ！）
　帰ったら早速試してみよう、とテンションが上がる。考え事が片付いたらなんだかおなかが減って来たが、さつま芋はまだ焼けていない。周囲にある売店に目を遣ると、軒先に『焼き芋アイス』と書かれた紙が下がった店があった。
（そんなのがあるんだ。せっかくだから買っちゃおっと）
　売店に行って購入し、口に入れる。
「んー、おいしいー」
　焚き火の前でアイスを食べるというのがとても贅沢な気がして、特に美味しく感じられる。
（ちゃんと焼き芋の味がしてそれでいてすごく甘くて……うん、最高！）
　溶けていくアイスがまた美味しく、真白はしばらくそこで、至福のひと時を過ごした。

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