オーナメントにご用心？｜リアクション

オーナメントにご用心？

　呼び込みの声を聞いた志波武道は、一緒に買い物に来ていた高梨煉へと話を振った。
「そっかもうそんな時期だったな。折角だからつくっていこーぜ！」
「え、武道と交換すんの？」
「俺、弟にあげるんだー！　れんちゃんの分もつくろっか？」
「うーん、交換っていうか、まずは……」
　イベントスペースに近寄るほど大きくなる泣き声。それはもう、喧嘩している彼女の物なのか、困り果てているスタッフのものなのかわからない。
「……なるほど、これはスタッフさんも泣くな」
　せっかくの明るく楽しい場のはずが、大げんかなぞされてはたまった物ではないだろう。気にせず作っている人もいるようだが、これでは小さな子供がびっくりして近づけない。
　聞き耳を立てようとしなくても聞こえてくる怒声に、武道はまず資料コーナーに目をとめた。
「なんか、オーナメントの事で喧嘩してるみたいだし、軽～く調べちゃう？」
「だな。外からいきなり入ってくのもなんだし、もうちょっと会話を聞いてみるか」
　適当に仲裁に入って火に油を注いでは大惨事だ。二人は頷きあうと、資料コーナーへ向かってみる。そこには、曖浜瑠樹が大事そうにラピちゃんを抱えて喧嘩する二人を眺めていた。
　その姿に、怒声を怖がっているのかと思った武道は、率先して朗らかに声をかける。
「おおっと、大丈夫？　怖くないぞ～」
「ん～？　怖くはないよぉ。ラピちゃん見たら、和んでくれないかなぁと思ってねぇ」
　ほわわんと柔らかな空気が、瑠樹から発せられた気がする。どうやってあの二人に割って入ろうかと焦っていた煉も、その空気に当てられてほっこりと気を落ち着かせた。
「そっか、その子はラピちゃんっていうんだな。威力は抜群じゃん」
　ラピちゃんを褒められて得意げに笑うと、瑠樹は喧嘩している二人をみやる。どうやら、おっかなびっくり作業していた一部の体験者にはろっこんの効果が多少あったようだが、目当てとしていた二人までは届かなかったようだ。
（う～ん……もう少し近づかないとだねぇ）
　とはいえ、わざわざ喧嘩している二人に近づけば警戒されてしまう。どうすれば不自然にならないように近づけるだろう？
「心配しなくて大丈夫ッ！　ちょっと調べ物をしたら、俺たちがなんとかしてくるから」
「調べ物？」
「喧嘩の原因さえわかれば、宥めやすいからな」
　ここで喧嘩を聞いていた瑠樹には心当たりがあった。その内容も、さっき読んでいた絵本に書いていたはずだ。
「えっとねぇ、あのお姉さんは、緑のリボンのついたベルが嫌みたいだよぉ」
　パラパラとページを開いてみせると、確かにそこには『緑のリボンは清き友情を結び、赤のリボンが深い愛を結ぶ』と書かれている。きっと彼女は、この情報を知ってしまったに違いない。
「緑をあげたら、お友達に……って事になるのかなぁ？」
　こてん、と小首を傾げる様は可愛らしいけれど、瑠樹は難しい顔をしている。まだまだ、愛と友情の違いは難しい年頃なのだろうから無理はない。
「あっちゃー……それはまずったなぁ、彼氏さん。ベルのほうは？」
「魔除けの意味があるみたいだな。こっちはそこまで目くじら立てるもんでもないと思うけど……」
　とはいえ、彼女の心には何か嫌な物があったのだろう。煉は瑠樹の頭を撫で、にっこりと笑った。
「情報ありがとな！　これでなんとか言いくるめられそうだ」
「れんちゃん、言い方……じゃ、俺は彼氏さんに」
　彼女さんのほうは頼んだぜ――そんな言葉の代わりに拳を軽くあげれば、ノックするように甲が触れる。
　問題の片方を安心して預けられる親友は、互いに頼れる笑みを浮かべて喧嘩する二人に近づいていった。

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