らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～

　城内に鳴り響くは、乱れた靴音と怒号。
　腐敗した現国王体制に憤り、反旗を翻したレジスタンス勢力が、とうとう城門を打ち破って城内に攻め込んできたのだ。
「姫様、ここは危険です。こちらへ！」
　侍女が部屋に飛び込んできて、祈りを捧げていた私――トワ・E・ライトフェロゥの手を引く。
　自室から出ると長い回廊は物々しい雰囲気で、騎士や側近たちが剣を携え門の方へ向かって走っていく。
　侍女に強く手を引かれた11歳の私は、彼らとは逆向きに引きずられるようにして走る。
　回廊の途中の大鏡に映る私は、王女様。
　王家の血筋であることを示す青い瞳。シルクの赤いリボンで結ばれた金の髪は宮仕えの女たちに日々手入れされていてふわりとしていて、ピンクのドレスも庶民の手が届く代物ではない。
　王家や一部の貴族はこうして着飾り、それ以外の庶民は高い税に苦しみその日の食べ物にも困る有様……。
（確かにこの国は、今のままではダメなのデス……）
　侍女に手を引かれて連れて来られた場所は、玉座の間。
　玉座の間もまた混乱の極みで、叔父である現国王と、その側近たちが、蒼い顔をして我先にと玉座の間の裏にある隠し通路から逃げ出そうとしているところであった。
（愚かなのデス）
　先々代の王として国を治めていた私の父が亡くなったのは２年前。娘である私は王になるには幼過ぎると、叔父が王座に就くことになった。国政の腐敗が始まったのはそれからだ。
（騎士たちが城を守るために戦っているのに、この人たちは自分の身ばかり心配して、こうして真っ先に逃げ出そうとしている……）
　父ならば、同じ状況になったとしてもきっと逃げたりしない。
　騎士たちを見捨てず、浮足立つ家臣たちを一喝し、こうなったのも自分の責任と王座に座り続けただろう。
　今日という日は来るべくして来た――私にはそう思える。
「姫様も早く隠し通路へ」
　意を決し、私は侍女の手を振り払った。
「今逃げたら、私は父に顔向けできないと思うデス」
　この日を予感していた。
　だから、心あるものたちとともに準備をしていた。
　もう守られるだけのか弱い王女ではいられない。
　ピンクのドレスも脱ぎ払えば、私の恰好は騎士のそれ。

「私は……自分の心に正直に生きる！」
　裾の焼け焦げたマントは若かりし父が戦場で戦ったときに身に着けていたもの。
　玉座の間に踊り込んできたレジスタンスの一人が投げた細身の剣を受け取り、すらり鞘から抜き払う。
　レジスタンスが旗頭に掲げていたのは、私。正当な王家の王女だったのだ。
「王……いいえ、叔父さま。逃げるのは止めない。けれどその王冠はおいていって。もう叔父さまには不要でしょ？」
　私は腰を抜かしてへたり込んだ叔父に、剣の切っ先を突きつける。
　王の側近たちは、王女である私の変わり身に戸惑って、見守っていることしかできない。
　叔父は尻を擦って後退りしながらも、王冠を押さえていやいやするように首を振った。
「叔父さま……まだわかっていないのデスか？　叔父さまが嫌なら、胴と首を切り離して王冠を取り戻させてもらうしかなくなるのデスよ。できればそうしたくはないのデスが……？」
　私が剣の先を叔父の首筋に食い込ませると、叔父はようやく退位か死かを迫られている状況なのだと気づいたようで、のろのろと王冠を外すと床の方へ投げつけた。
　私は剣を収めた。
　叔父は喉の奥でひぃと細い悲鳴を上げ、隠し通路から逃げて行った。叔父に従って私腹を肥やしていた側近たちも、我が身も危ういと気づいたのかそれに倣った。私達は彼らを追わなかった。
「隠し通路の出口は分かっているのデス……あとは民に任せるのデス」
　私は一呼吸して、王冠を拾う。
　レジスタンスたちは期待を込めて私を見ている。
　高々と王冠を掲げると、この国の民と、天の父へ、私は心を込めて宣言する。
「私はここに、国の再興を誓う！　――ライトフェロウの名において！」