らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～

　真っ白なキャンバスがある。
　大きな大きな、どんな夢でも描けそうなキャンバスだ。
　肩に斜め掛けした画材鞄は、様々な色の絵や様々な太さの筆ではち切れそう。
　私――旅鴉月詠は一心不乱に筆を動かし続けている。
　しかし空のキャンバスは空のまま。
　色の一塗り、線の一筋も描かれてはいない。

「何も描かれちゃいないだろう、って？」
　真っ白な空間で、誰からも問いかけられていない問いかけに、私は答える。
「何を言っている。この真っ白のキャンバスには、様々な人の手で様々な夢が描かれてきたではないか。それが見えないとでも言うのかね？」
　何と愚かな。
　私はゆるゆると首を振る。
　そこに『ない』からと言って、本当に『ない』とは限らない。
　そこに『ある』からと言って、本当に『ある』とは限らない。
　空であることはすなわち無限。
　『ない』と思うから『ない』のだ。
　『ある』と思えば『ある』のである。
「何？　禅問答のようだって？」
　声なき声に答え、私は薄く笑う。
　いやいや。
　これこそが真理だと。
「時間をかけ、筆を動かし、何も描かない。――これもアートだ。アートとはまた、魔術でもあるのだよ君」
　人の脳には空白と空白を補完するために、物語を紡ぐ能力が備わっている。
　それは生きるための力だ。
　考えてみるがいい。
　君が右を向いているとき、君の右側に友が座っているとする。
　君が首を動かして左を向いても、やはり君の右側は友が座っている。
　……と君は疑うことがない。何故かな？　君の視界には友は写っていないのに。
　それは君の脳が、物語を紡ぐからだ。
　空白と空白を埋める物語だ。
　君はまた右を向く。やはり友はそこにいる。
　私の右隣に友が居続けるという物語は、ここで空想から現実になる。
　どうかね？　これが最もシンプルな物語の仕組みだ。
　物語は空白から紡がれる。
　
　私は空白を描いているのだ。
　どんな物語も紡ぐことのできる空白だ。
　何もないということは、∞であるということと同義である。
　黄色の絵具のキャップを捻り。
　青の絵具と絡み合わせる。
　筆につくのは緑のグラデーション。
　目を閉じ、心の赴くままに筆を動かす。
　真っ白なキャンバスがある？
　それはどこに？
「君はいったい何を見ているのかね？」
　形あるものなんてありはしないさ。
　ここは形而上の世界。
　キミは誰にも縛られていない。
　すべてはここにある。
　必要なものはもう鞄に入っている。
　旅立つ準備はできている。
　そう、信じるだけでいい。
　それだけでもう世界はそこに立ちあがってくる。

さあ、何を描こうか――。

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あとがき

担当マスター：笈地行
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こんにちは。笈地です。
新年の初夢シナリオ（白編）にご参加いただき誠にありがとうございました。
１枚の絵からイメージを膨らませるというのは
難しくもありましたがとても楽しい時間でした。

今回、何名様かは『OHカード』という絵と文字のカードを使って
インスピレーションを膨らませました。
何故こんな展開に？　という雰囲気のあるところで使っている可能性が高いです。
そこはもう、わたしも「何故こんな話に？」と思いながら、
イメージの遊ぶままに書いていきました。

順番は、なんとなくですが、季節の移り変わり順になっています。
あと、普段三人称で書くことが多いのですが、
せっかくひとりずつをじっくり掘り下げる機会でしたので、
思い切って一人称で書いてみました。みなさまのイメージに合うといいのですが……

それでは今年も何卒よろしくお願い申し上げます。またのご縁を楽しみに……笈地でした。

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