らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～

　赤々と色づく紅葉に囲まれた秋のお宮の境内に、ひとつふたつと気配が増える。
　社を取り囲む森の中からためらいがちに集まってくる。
　この時期、とっぷり暮れたこの時間、朱塗りの拝殿の正面にある段々に腰かけ話し始めるのは、あれやこれやと悩みがある者たち。はじまったのは、真夜中の秘密の集会だ。
　俺はいわゆる化け狐で、万条幸次とひとの名もあるが、ここいらではお狐様と呼ばれている。耳や尻尾はそのままに、白の着物に臙脂の袴の半人半狐の姿をとって、黒の外套を敷物代わりに社の屋根の上に寝そべり、聞くとはなしに話を聞く。
　あちらの木の実が色づいたとかこちらで狩りが上手く行ったとか、そんな暮らしの話もあれば、茶屋の娘が武家の男と逢引きしていた話やら、主人が悪いあきんどに騙されて大損こいた話やら、うわさ話にも花が咲く。
　俺は気もちがのんびりしているほうで、輪に入っていっしょに話すのはそんなに得意じゃないけれど、賑やかに話しているのを聞いているのはきらいじゃない。
　そのうち若い男が深刻そうに口を開いた。

　――あの娘が好きなんだ。
　――でも家の者が許さないでしょ？
　――血筋が違うって言われたかい？
　――それでもあの娘が愛おしい。
　――それなら家を飛び出すか？
　――いっそ森を抜け駆け落ちするか？
　――ああ、でもあの娘はどう思っているだろう。私と一緒になってくれるつもりがあるだろうか？
　――自信がないかい？
　――なら身を引くかい？
　――自信はあるとは言い切れぬ。さりとてあの娘が他の男と一緒になるのは我慢がならぬ。

　どうやら今宵の最大の議題は恋の悩みということらしい。

　――それにしてもあんた、のんびり屋だね。

　年嵩のいった女が呆れた口調で言ったので、俺はてっきり自分のことを言われたのかと思って、どきりとして身を起こしたが、相談していた若い男に対して言った言葉らしい。

　――そうかな。
　――そうさ。もう他の者たちはすっかりつがって子もなした頃合いだろう？　それをいまさら腫れた惚れたって、女の方はすっかりその気は失せてるだろうさ。
　――そんなはずはない。夕べも会ったが、身を寄せてきた。俺に気があるのは間違いない。
　――そうかい。それならこんなところで油を売ってる場合かい？

「そうだよぉ。好きなら今すぐ彼女の元へ行かなくちゃ！」
　俺は思わず屋根の上から声を掛け、扇をひと振り飛び降りた。

　ふぎゃ！
　ふみゃ！
　ふぎゃあ！

　――お狐様だ！
　――今宵は終いだ！！

　ミャオミャオミャオ！！

　鳴き声を上げ、真夜中の集会をしていた猫たちはいっせいに散っていく。
　言ってなかったかな……真夜中の秋のお宮の境内で行われていたのは、猫の集会だったんだ。
　まだらの雄猫――恋の相談をしていた若者――も逃げて行ったが、鳥居の前でちょいと振り返る。
「早くお行き。きっと彼女、待ってるよぉ」
　そう言って俺が手を振ると、彼は意を決したように尾を立てて、神社の石段を駆け下りていった。

　――やれやれ世話が焼けるねえ。

　残ったのは、年嵩のいった雌猫いっぴき。
　悠然と賽銭箱の脇に身を丸め、ぱたんと尾を振り大欠伸。
　俺は彼女の隣に腰かけ、言った。
「集会の邪魔をしちゃってごめんよ。つい口を出しちゃったよ」
　――なあに、丁度良かったさ。あれであいつも腹を括れたろう。
「上手く行くといいねぇ」
　――それは、あいつ次第だねえ。

　そう言って俺たちは満月を見上げる。
　月はまあるく大きくて、優しい顔で見守ってくれている。
　風が吹き、月下に深紅の紅葉の散り行くのを、俺たちは並んで見つめて続けた。