らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～

　夢の中でも眠っている。
　冬と春のあいだにはまどろみの夢がよく似合う。

　私――春山小枝はどんなときでもどんなところででも眠れるのが特技。
　けれど夢の中でも眠ってるってなんだか不思議だなあと思う。
　私は夢の中で眠っていて、その私を私はどこかから見ている。
　えっと……何言ってるかわからなくなってきたけど、そういうこと。
　あたりには雪が積もっている。
　雪は冷たいはずだけれど、寒さはぜんぜん感じない。
　空気はお布団の中と同じくらい温くって私はとっても気持ちがいい。
　心地がいいのは、私より大きな雪だるまさんのぬいぐるみさんが、私の背中を抱き留めていてくれるから。
　ちょっと垂れ目で、赤いマフラーをして、黒いバケツの帽子も細い木の腕もフェルト製の雪だるまさんは、刺繍のお口をにっこりさせて、眠っている私を見守っているの。

　私は水色の襟のふんわり白い雪の結晶模様のワンピースを着て、袖の膨らんだ春の日差し色のカーディガンを羽織っている。髪飾りはピンクのデイジーの花。
　雪だるまさんはそんな私を大きくてやわらかいお腹で支えている。
　雪だるまさんの背後には、白い雪の冠を被った枯れ木が一本立っていた。
　夢の中では１秒ごとに季節が春へと進んで行って、白い雪の冠は見る間に小さく溶けてゆき、枝の先から雪解けのしずくがぽたりぽたりと大地に落ちる。
　すると大地はひとしずくごとに目を覚まし、淡い緑の植物の芽が、ぽこり、ぽこりと顔を出す。
　植物たちはああよく寝たと大きく伸びをするようにぐんぐん緑の芽を伸ばし、葉を付け花を咲かせてゆく。
　黄色のたんぽぽ。
　薄紫のパンジー。
　ピンクのチューリップ。
　真っ赤なポピー。
　いい香りのする春の花々に囲まれて、私はやっぱり眠っている。
　ねえ夢の中の私さん？
　あなたは一体どんな夢を見ているの？
　とっても気持ちよさそうで、ほっぺたの色は桜色。
　胸は静かに上下して、投げだした手足はリラックスしている。

　――大丈夫だよ。

　雪だるまさんの声。
　子どもみたいに柔らかくて、おばあちゃんみたいに優しい声で、子守唄を歌っているみたい。

　――大丈夫だよ。さえちゃん。
　――目が覚めているとき、
　――つらいこと、かなしいこと、
　――あっても大丈夫だよ。

　うん。大丈夫。
　私、あんまりいろいろ考えないんだ。
　だっていつでもとっても眠くなっちゃうし。
　夢の世界は雪だるまさんみたいに安心だし。
　だからね、大丈夫なの。

　夢を見ている私は心の中でお返事してみるけれど、夢の中の私は眠ったままだから、雪だるまさんに伝わったかどうかはわからない。
　夢の中の季節は１秒ごとにさらに進む。
　雪だるまさんの後ろの木の枝に乗っかっていた雪の冠はすっかり溶けきり、枝の先から若芽が萌え出る。
　椋鳥が飛んできて枝の上で囀れば、モンシロチョウも花々を行き交う。
　ポピーの茎を登ってくるのは真っ赤な丸いテントウムシさん。
　地面からくんくんピンクの鼻を出すのはモグラさんかな。

　――春がきたよ。

　雪だるまさんの歌うような声。

　――目覚めのときだよ。

　ああ、そうだったねぇ。
　ずっと眠っていたいけれど。
　そろそろ起きる時間みたい。

　眠っている私の世界はすっかり色鮮やかで賑やかな春。
　冬と春のあいだにはまどろみの夢はもうおしまい。
　ありがとう雪だるまさん。眠っている私を見守ってくれてありがとう。
　目覚ましの音。一日っていう私の人生の一幕が開くのを告げるベル。私は目覚める。

　――おはよう、世界。

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