らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～｜リアクション

らっかみ！新春☆初夢宝船フェア２０２０！　～白編～

　鉄錆びた血の匂いがする。
　平和な世界に身を置いて、穏やかに生きることも出来るようになったのに。
　どうして僕は戦いの中に身を置いてしまうのだろう。
　どうしてこんなに惹かれてしまうのだろう。

　夢を見る。僕――サキリ・デイジーカッターが子ども時代を過ごした饐えた匂いのする街の裏側。あそこには子どもが酒場に出入りするのを止めるような常識ある大人などいなかった。店の女たちは高いスツールによじ登る僕のような子どもを飼えない捨て猫を可愛がるのと同じように愛で、店長に内緒でホットミルクと賄いの残りを持って来ては僕が食べるのを愛おしそうに眺めて、どこかに捨ててきた我が子は今はどれほど大きくなったろうかなどと話をするのだった。
　そんな女たちの中にカード占いが出来るという人がいた。線の細い影のある女で、男から逃げてきたという噂だったが、僕のような子どもにはどうでもよいことだった。
　女はカードを捲っていく。
「女教皇の逆位置、隠者の逆位置……。あなた、子どものくせに冷静で感情が乏しそうに見えるけれど本当は心の温かい子なんじゃないかしら？　愛情を示すのが下手で少し神経質、誰かと繋がりたいけど一人でいるほうが楽で、孤独でいることを選んでしまう……」
　僕は女が何を言っているのかよく分からなかった。女はさらにカードを捲る。
「死の正位置」
「それって悪いカードなの？」
　僕は死のカードの不気味さに思わず聞いた。
「カードにいいも悪いもないのよ。そうね……この世のものは同じようでいてどれも昨日とは違っていて、変わらないものってないの。だから誰かと別れたり、物事が終わってしまうことがある。けれど終わらなければまた新しくやり直すこともできない。死や別れは、辛いけれど、悪いことばかりじゃないのよ」
　女はどこか自分に言い聞かせるような口調で言った。
「ふうん」
　その時の僕はやっぱりよく分からず、頷いただけだった。
　女はテーブルに並べた最後のカードを捲った。僕はそのカードに目を奪われた。
　それは、月を背にした海辺で、目隠しをした人が二本の剣を両手に持ち交差させているカードだった。
「ソードの２……あなたの未来は、ギリギリでもあやういところでバランスが取れて調和しそう」

　あれから、どれほど経ったろう。
　＜斬空赤刃＞で瞬間移動し、敵の頭上に躍り出る。
　月光に瞬く二本のマチェットは赤光し、鋼鉄をも破壊する威力をもって敵を切り裂く。
　敵は腕を失って咆哮し、死に物狂いに僕を捉えようと鋭い爪を一閃させる。
　その反撃の手の届く前に再び瞬間移動し、僕は鉄塔の上に月を背に立つ。
　もう僕はあの場所にはいない。
　失ったものと引き換えに得た友もいる。
　平和な世界に身を置いて、穏やかに生きることも叶うのに。
　なぜ僕は戦いに身を投じてしまうのか。
　瞼に思い浮かぶのは、あの『ソードの２』のカード。
　こうすることでギリギリのバランスを保っているという感覚。
　両手のマチェットを握りなおす。
　まるで我が体の一部であるかのように、それはしっくり手になじむ。
　銀に輝くその切っ先に、安堵を覚える。
　僕は、なまくらな剣じゃない。
　切れ味には自信がある。これが僕の進む道。

「さあ、踊ろうよ」

　身の深いところから湧いてくる快び。
　鉄錆びた血の匂いが僕を僕たらしめる。

　月下に、赤い花が咲く。