【星幽塔】第六階層　道化の遺産｜リアクション

【星幽塔】第六階層　道化の遺産

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　亀裂を抜けた先の地下空洞に、冒険者たちが降り立つ。
　明かりはゴーレムたちの抱えた松明と、亀裂から射し込む光だけ。しかし、特に不足はなさそうだった。
　この空洞自体は見た目通りのものでしかなく、事前調査でも罠や仕掛けの類は見つかっていない。
　こんな空間を遺していたこと自体が罠、とも言えるが。
（本当に先代はロクな事してないな）
　サキリ・デイジーカッターは内心で嘆息した。亀裂の護りを固めるゴーレムたちの気配を背後に、彼らを操るフローレンスを見やる。
「思うところはあるだろうけど、くれぐれも冷静にね」
「……わかっています」
　うなずくフローレンス。ローブを強く握りしめる手は真っ白だ。
　微かな地響きが、それ以上の会話を中断させた。
　ゴーレムがばら撒いた松明の明かりの向こうから、巨大な影が歩み出る。人の何倍もある巨体に、鋭い鉤爪を持つ四肢。蛇のような長い首の先には、一本一本が大ぶりのナイフじみた牙。
　道化の遺産たる魔法生物――メンデスの爛々と輝く瞳が、冒険者たちを映す。
　しかしすぐに彼らから視線を外し、辺りを見回す。
　その眼が、亀裂を捉えた。
　咆哮が轟く。
　巨体の陰から飛び出したのは、幼体と思しき三体の小型個体。
　身構えた冒険者たちには目もくれず、ただまっすぐに亀裂を目指して飛ぶ。後を追い、成体もその巨大な翼を広げようとしていた。
（俺たちに見向きもしねえ。やっぱりこいつら…‥）
　メンデスを追う龍目豪の視線に、どこか思い詰めた色が宿る。
　だが、
「悪いな、このまま外へ出すわけにはいかない！」
　豪の腕輪が黒い光――呪術の光を放つ。弱体化の光を浴びた成体の翼が、萎れたように力を失う。
　同様に幼体が高度をがくんと落とし、かろうじて体勢を立て直したところへゴーレムたちの一斉射。
　無数の魔法弾にたまらず身を翻せば、迫りくるのは鳥の翼を生やした白いもこもこ。
「逃がさないよぉー！」
　空飛ぶ羊に乗った曖浜瑠樹が、突撃しながら矢を放つ。
　二体が矢を受けて落下。ティオレ・ユリウェイスと恵御納夏朝が、それぞれ一体ずつ追いかける。
　なんとか矢をかわした三体目は、羊タックルの直撃に吹っ飛ばされた。
　すんでのところで浮上し、かろうじて地面への激突は回避。しかし、万全の飛行はしばらく行えそうにない。

　そんな幼体たちを守ろうとして、だろうか。
　成体メンデスが駆けた。飛べぬならばと代わりに力を漲らせた四肢は、一歩ごとに空洞を揺らして土煙を生じさせるほど。
　幼体を狙う小さき者ども目がけ、バネじかけのような勢いで首を伸長。その速度は、激突するだけ人ひとり簡単に叩き潰せてしまうほど。
　サキリが跳ぶ。赤光と魔風を帯びた蛇腹剣をしならせ、狙うのは成体の首。
　瞬間、メンデスはやはり激烈な勢いで首を引き戻した。赤光の剣閃がメンデスの眼前を掠め、その残滓が地面を抉る。
　異形の竜の巨大な鉤爪が閃いた。『斬空赤刃』で躱すサキリの肌を、逆袈裟に走った風圧が叩く。
　竜の視線がサキリを追う。
　メンデスの周囲をぐるりと囲んだゴーレムが、無数の魔法弾でメンデスの視界を埋め尽くした。
　鬱陶しげに身をよじる巨体の足元に、豪が踏み込む。外套のように姿を変えて随伴する銀の使い魔が、その身を守っていた。
「ファイトー！」
　『軽いぜ！』を発動。重さがゼロとなった成体メンデスの巨体を、豪はそこらへんの小石かなにかのように持ち上げ――空洞の奥めがけて投擲。
　重さが戻り、メンデスは地響きをたてて地面に沈んだ。

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