【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞

〇テスト返却日

　３年７組の教室は、迫るその瞬間に身構えてざわついていました。
　その中で三宅葉月は、端然と席に着いて待っています。
　皆と同じく制服を規定通りに着ていても、アンティークドールめいたどこか作り物めいた容姿の葉月。
　独特の空気を纏っている彼女は、高貴な森の精霊のようにも見えました。
「ミヤケハヅキ」
　やがてジャン・ポランスキー先生に自分の名前を呼ばれると、音もたてずにそっと立ち上がりました。
　そして気配すら感じさせない静謐な歩みで教壇へと向かい、テストを受け取ります。
「サスガです」
　先生が言うのも無理はなく、点数はほぼ満点に近いものでした。
　机に戻った葉月は、それらの答案用紙を一枚一枚、無感動に一瞥しました。
　その後は、ぼんやりと──傍から見れば物憂げな人形めいた雰囲気を漂わせて──自分の席に座り続けて。
　
　いつしかホームルームも終わり、教室には自分一人になっていました。
　そのまましばらくそこにいましたが、やがて葉月は深いため息をついて席を立ちました。
（今夜は寝子島に父が来る）
　本来ならそろそろ星ヶ丘寮に戻って身支度しなければならないはずでした。
　けれど、どうしてもそんな気にはなれないのでした……。
　今までもそうだったように、壮絶な精神上の戦いを繰り広げなくてはならないのが目に見えています。
　何を話しても否定の言葉しか返らない。
　こちらも相手の望み通りにはできない。
　そんな不毛な戦いを、何度となく繰り返して。
　それでも父のお金で生活している身としては、縁を切ることもできません。
　
　教室を出ると、足は自然と美術室へ向かっていました。
（逃避なのかも知れないけど）
　結局、その日は時間一杯まで美術室で絵を描き続けました。
　心の中の不安や動揺を浄化するかのように。