【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞

　テストを終えた２年生の青山絢は、重い足取りで学校を出ました。
　ここ数日、テストは散々でした。
（……何しろ天候が荒れて、最終日は吹雪だわ、教室内は極端に寒いわで、本当にきちんと問題解けたのかしら）
　不安で不安でたまらない絢です。
　実際は結構いい点を取れていたのですが。
（多分神魂の影響だろうけど、テストの時にまで容赦なく襲うのは勘弁してほしいわ）
　周りは打ち上げの話で盛り上がっていたようですが、やや人見知りな絢は賑やかな集まりには興味がありませんでした。
　そんな憂鬱な気分で、シーサイドタウンのマンションへ帰宅すると。
「おかえりなさーい♪」
　同居している従姉妹の水谷真優理に笑顔で迎えられて、驚きました。
「真優理さん、今日は仕事じゃ……？」
「今日は代休なの」

　13歳年上の従姉、真優理は星ヶ丘の高級ホテル、ステッラ・デッラ・コリーナで働く誰もが認める有能な社会人です。
　年末──クリスマスからお正月にかけて、彼女の勤務先は書き入れ時なので超多忙のはずですが、今日は代休。
（絢ちゃんのテスト期間中長かった……）
　ウキウキしているのは、単に休みだからというわけではありません。
　傍目には魅力的な「大人可愛い系の美人」なのだけど……従姉妹のことになると残念無念なアラサー女子になってしまいます。
（テスト勉強の邪魔しちゃいけないからそっとしておいたけど、たった４日間が４年間会えなかったのと同じくらいに寂しかった……）
　抜き足差し足で息をひそめて絢の部屋の様子を伺ったり、集中を乱してはいけないと料理の時も大きな音を立てないよう気をつけたり。
　そんな日々も今日で終わり。
「テストお疲れ様」
　真優理が冷蔵庫から取り出したのは、勤め先の近所にある高級洋菓子店のガトーショコラ。
「えっ、買ってきてくれたの？」
「絢ちゃん、ガトーショコラ好きでしょ。ついでに紅茶専門店からガトーショコラに合う紅茶も買っちゃった」
「え、高かったんじゃ……」
「いいの。推しにはお金を使わなきゃ！」
「……ありがとう、真優理さん」
「その表情と言葉だけで幸せ……あ、写メ取らなきゃ♪」　
　写メを撮った後、そのまま二人でささやかなティーパーティとなりました。
「ガトーショコラも紅茶も美味しい」
「良かった♪　それにしても、テスト中寂しかったわー。仕方ないから、今まで撮り貯めたニャンスタグラムに入れておいた絢ちゃんの特選画像をスマホで見たりして慰めていたけれど」
「やだ、真優理さん」
　赤面する絢に真優理は幸せそうに追い打ちをかけます。
「もし絢ちゃんがアイドルとかだったら、絶対に収入の９割は推しのためにドバドバつぎこんでたはず。それほどまでに尊みが深すぎるのだ、絢ちゃんが」
「もう……」
　真優理といろいろと話をしているうちに、さっきまで抱いていたテストの結果への不安はいつの間にか消えていたのでした。
「テスト期間中寒かった？　そんな時は膝掛けがいいわ！　暖かくて絢ちゃんに似合うデザインのを探すからね！」
（これで明日からの仕事も頑張れるわ）
　高級なガトーショコラも紅茶も美味しいけれど、それは絢が喜んで食べてくれてこそのこと。
　寂しかった分を取り返すように、真優理も色々話せて満足したのでした。