【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？寒風、四日間の死線＜物語編＞

　寝子高の制服が全く似合わない、23、4歳にしか見えない年齢不相応な美貌。
　そんな２年生の朝鳥さゆるは、あまり学校に顔を見せないにも関わらずテストだけは律義に受けました。
　いつも律義に高得点を取り、律義に受け取ったら、また顔を見せなくなる──それが朝鳥さゆるという女なのです。
　答案の回収が終わると、さっさと教室を抜け出したさゆるを、背後から呼ぶ声がありました。

　静謐さと壊れやすそうな印象をともなった美人、葉利沢倫理子。
　彼女はその内に冷酷かつ狡猾で攻撃的な人格「Malice」を隠していて。
　最近はMaliceは倫理子の体を乗っ取り、週末ごとにさゆると体を交わす仲となっていました。
　けれどどんなに情事を重ねても、さゆるの心を自分に向けることは叶わず。
　Maliceはさゆるに会えない２週間をイライラしながら過ごした末に、テストに臨みました。
　不機嫌に適当に答案用紙を埋めた答えは、ほぼ満点です。
　試験最終日、さゆるに会えない苛立ちはピークに達していました。
　その時、偶然廊下でさゆるの後姿に遭遇したのです。

「さゆる」
　揶揄うような、悪意に満ちたその声は、歌うように響きました。
（会いたくもない相手に捕まった）
　声の主を悟ったさゆるは無視して去ろうとしました。
　しかしMaliceはすっと横から腕を絡ませます。
　そして、人目を避け、使われていない倉庫へすっと連れ込まれました。
「ねえ、さゆる……最近つれないわよ？」
　Maliceの声は嬉しそうでした。
「……」
　さゆるは無言でしたが、Maliceは構わずウザく絡みます。
「この前の土曜の夜、どこに行ってたのかしら？　……私よりステキな人のところへいってたの？」
　一方通行のまま、歪んだ愛情を吐露するMalice。
　それは嫉妬に歪んださゆるへの執着でした。
「……あたしがどこで誰と何しようが、あたしの勝手」
　親も亡く親類もいない天涯孤独の身のさゆるにとって、Maliceは夜毎行きずりの快楽に溺れるためだけの相手の一人に過ぎませんでした。
「……ふうん。藍人のことはもうどうでもいいんだ？」
　適当に挑発的なことを言っていたMaliceの横っ面を、さゆるはいきなり無言で平手打ちしました。

　さゆるを救い、けれど同時に真の苦しみを刻み付けた片篠藍人。
　その存在は、さゆるにとって全てでした。
　Maliceが揶揄うように藍人の名を出したことが、すべてをどうでもいいと思っているようなさゆるの禁忌に触れたのでした。
　静かな殺意をむき出しにしたさゆるはMaliceの首に手をかけました。
「死ねよ」
　と囁き首を絞めるさゆるに、なお挑発的に笑み。
「殺すなら……それでもいいわよ……それで私はあなたのものに……」
　やがてMaliceは意識を失い、瞳を閉じ──さゆるは手を離しました。
　そして再び目を開いたとき、眠らされていた倫理子が目を覚ましたのです。
　気弱に揺れるその瞳を見て、さゆるはそこにいるのがてMaliceでなく本来の倫理子であることを察しました。
　先日の生徒会選挙の時、さゆるは倫理子に出会い、問われるままに今までのいきさつを説明したのです。

　二人は暫く無言でした。
　何が起きたか問わないということは、倫理子は今の状況を把握しているのか。
　目の前にいる倫理子に罪はない、のだろうけれど。
　いいえ、そんなことはどうでもいい。
　泣き出しそうな声で、絞り出すようにさゆるは言葉を発しました。
「もう、あたしに近づかないで」
　そして倉庫を去っていきました。