１１月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

１１月の☆ハッピーバースデー

●緩やかなひととき

　とある日の寝子島高校。
　御巫時子は１日の授業が終わると、鞄を持って理科室へ向かった。鞄の中には五十嵐尚輝先生への誕生日プレゼントが入っている。きっと彼はいつものように理科室にいるだろう。

（このプレゼント、喜んでもらえるか不安もありますけど）

　鞄に目を向けながら、五十嵐先生のことを考える期待と不安を抱えながら、理科室をノックする。

「失礼します」

　返事はなかったが、実験に夢中なのだろうと思い、中にはいる。そして予想通り、五十嵐先生は理科室で何か実験をしているようだった。集中していて時子が来たことに気づいていない。

「尚輝先生！」
「ん？　あぁ御巫さん」

　声を掛けられた先生は手を止めて、時子のほうを向いた。

「少し休憩しませんか？」

　なにか研究をしていたのだろう。メモ書きや図が書かれた紙がいくつも並んでいる。

「そうですね」

　五十嵐先生はそれらを軽くまとめて、時子のそばに座った。それから何気ない会話をしながらくつろぐ２人。

「あの……」

　会話の途中、時子は少しためらいながら、言葉を発した。

「尚輝先生、誕生日おめでとうございます……」

　微笑みながら鞄の中から、誕生日プレゼントを取り出すと五十嵐先生に手渡した。

「ありがとうございます。開けてもいいですか？」
「は、はい」

　困った顔をされないかという不安を抱きつつ、時子は先生が封を開けるのを見守る。
　中身はコーヒーのセットだった。モカ、コロンビア、キリマンジャロなど、様々な種類が入っている。豆そのものではなく、すでに挽いた状態で１つ１つ丁寧に包装されている。

「ブレンドしてるものもあるのでその日の気分で選んでみてくださいね。カフェインレスのコーヒーもありますので夜に飲みたい時にどうぞ」

　五十嵐先生は種類を眺めながら度々頷いている。しかし種類が多くて迷っているようにも見える。助け舟を出すように、時子が尋ねた。

「先生の今日の気分は？」
「そうですね……落ち着いた味がいいです」
「じゃあコロンビアを淹れますね」

　それを聞いた時子はコロンビアの袋を選ぶと、さっそく淹れる準備に取り掛かる。お湯を沸かして、挽いた粉を２人分量る。コロンビアは酸味と甘みが重厚だが、突出した部分がなく、バランスが良い。コーヒーの基本の味といってもよい。

「なにか手元に残るものがいいかなと思ったんですけど、形より思い出に残るものもいいかなって」
「そういうのも……いいかもしれませんね」

　時子と五十嵐先生はそんな会話をしながらコーヒーが出来上がるのを待つ。
　ほのかな香りが理科室に漂う。淹れ終わったものを２人分のカップに注いだ。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

　五十嵐先生は時子の淹れたコーヒーを受け取った。時子も自分の分を手に持って隣に座る。先生は味わうようにそっと口をつける。なじみのある味で、安心感を覚えた。それを見て時子もゆっくりと飲む。

（ホッと一息つく時間がもっと安らぐ時間になりますように。私は先生と一緒にコーヒー飲んでほっこりする時間が好きです）

　この時間がいつまでも続けばいいのにと願う。
　それから最近の出来事を話したり、体調の心配をしたりと、いつもと変わらない時間を過ごした。
　
　じつは今日は時子も誕生日だった。
　しかし五十嵐先生と過ごしたこの時間がなによりのプレゼントとなった。

　なにものにも代えがたい、最高のプレゼント。

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