１１月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

１１月の☆ハッピーバースデー

●姉妹水いらず

　今日は１１月９日。仙藤紫の１９歳の誕生日である。
　前日は大学の友人達からいろいろとプレゼントを貰ったり、そのメンバーとともに食事を楽しむなど、それなりに賑やかに過ごした。
　そして今日は妹である仙藤蒼と一緒に過ごす約束をしている。紫は目いっぱいにおしゃれをして蒼を待っていた。

　その頃。
　蒼は自室の鏡を見ながら、あれこれ服装を考えていた。

（どれ着ていこうかな……）

　今日は特別な日なので、なんとかお洒落しようと奮闘している。

（私の誕生日の時は、アウトレットでお姉ちゃんに服とかコーディネートしてもらったけど……）

　そのときのことを思い出す蒼。
　ただ自分には姉のようなセンスが無いのを自覚しているので、それは無謀だと諦めている。それでも精一杯なお洒落をすると、自分のバッグに目をやった。この中には姉へのプレゼントに買ったマフラーが入っている。
　姉のようなセンスは無くても、姉がどんな柄や色が好きなのかは分かる。それを買うためにクレーンゲームでせっせとレアな景品を集めて、ネットオークションで売って、購入資金を稼いだ。いかにもゲーマーらしい作戦だ。
　それがちゃんと入っているのを改めて確認すると、部屋を出た。

「お姉ちゃん、お待たせ！」

　蒼は元気に紫に声をかけた。
　紫も蒼に微笑みかけると、２人は並んで歩き出した。

　旧市街を進みながら、まず向かったのは寝子島神社。
　鳥居をくぐり、境内を歩くと、少し冷たい風が吹いていた。その先にある建物に到着すると、２人はそれぞれ願いを込めて祈る。

（寝子島高校に合格しますように）
（それと、どうかお姉ちゃんに悪い虫が付きませんように）

　蒼は真剣に願った。
　紫が去年失恋したことを知っている身としては、また悪い虫がついて傷つくのは見たくない。だから、それを懸命に祈った。
　先に顔をあげたのは紫だった。
　蒼の様子をみると、なにか真剣な雰囲気を感じ取った。蒼が顔をあげたところで声をかける。

「何をお願いしていたの？」
「寝子高の合格祈願！」
「気が早いわね……他には何を祈ってたの？」
「ないしょ♪」

　蒼はそう言ってはぐらかすと、軽やかな足取りで鳥居をくぐった。その後ろを追うように紫も鳥居をくぐる。お参りを終えて、次に向かったのは寝子島映画村。こちらは特に目的もなく、なんとなく立ち寄ったので中を適当に散策する。
　ちょうど忍者をテーマにしたアトラクションが行われていて、様々なからくりが仕掛けられた忍者屋敷、忍者の砦をモチーフにした立体迷路などがあった。少々季節はずれに感じたが、お化け屋敷なども満喫した。
　行く先々でナンパされるが、蒼がそれとなく、時にはガン無視で遠ざける。

（今日は姉妹水入らずなんだからほっといて！）

　そうして２人きりの時間を楽しみながら、レストランに入る。そこで『侍カレー』なるものを食べた。エビフライが入っていて、それがちょんまげをイメージしたものらしい。

（……味はまぁまぁかしら。匂いもきつくないし、程ほどの辛さで食べやすい）

　コンセプトは悪くないのかもしれない。
　でも蒼が美味しそうに食べてるので、紫も満足そうに口に運ぶ。

　映画村を出ると、２人はシーサイドタウンに向かった。
　大観覧車に乗ると、ゆっくりと上へ向かっていく。２人で寝子島が夕暮れに染まるのを眺めている。
　すると蒼が鞄から何かを取り出した。

「お姉ちゃん、誕生日おめでとう！」

　驚きつつも、それを受け取る紫。
　中身を確かめると、自分好みの柄がデザインされたマフラーだった。

「ありがとう」

　お礼をいいながら蒼の頭をなでる。蒼は思わず照れ笑いを浮かべた。紫はそのプレゼントを早速身に付けた。それはとても似合っていて、２人は幸せそうに微笑んだ。