【寝子祭2nd】『Jewel・BeJewel』｜リアクション

【寝子祭2nd】『Jewel・BeJewel』

☆ようこそ、『Jewel・BeJewel』へ！（１）

　開店からそれほど経たずに、『Jewel・BeJewel』を訪れたのは高峰一馬だ。
（大塚も展示やってるっていうし、見に行ってみないとな！　で、大塚は……）
　ぐるり、一馬は早速、賑わう店内に視線を巡らせる。
　その眼差しが、テーブルを片付けるために店の方へと出てきていた錦織彩の姿を捉えれば、
「っ……！」
　彩は、怯えた小動物のように小さく肩を跳ねさせて、パタパタとバックヤードへ。
（んん、びびらせちまったかな？　あんま不用意に近付かないようにせんと）
　笑いかける暇さえなかったな、と苦笑する一馬。
　その姿に気づいた大塚絽紗は、途端、表情を輝かせた。
　店をそつなく回しながらも、「高峰君、まだかな……」なんて胸をそわそわさせていた絽紗なのだ。
「高峰君、いらっしゃいー」
「よっ、大塚！　見に来たぜ」
　ひらり、快活な笑顔で手を振る一馬の元へ、絽紗は急いだ。
「ん、仕事は大丈夫なのか？」
「大丈夫……だったら良かったんですけど、御覧の通りの盛況っぷりでー……」
「良いことじゃねえか。凄えよ。あ、折角だから、先に展示の方、見てきてもいいか？」
　裏表のない賛辞。屈託のない明るい笑み。
　本人からすればごく自然な一馬の言動が、絽紗の胸をぽかぽかとあたためる。
「ふふ、勿論です。先にご注文だけ、伺っておきましょうか？」
　サッとメニューを差し出せば、「お、サンキュ」と一馬がまた笑った。
「へえ、色んな種類があるんだな……」
「同好会の皆で考えたんですよ」
「これを全部か？　ほんとに凄えな。じゃあ……うん、このメロンサイダーのやつで」
　お願いします、とメニューを返そうとすれば、瞬間、触れ合う手と手。
「っ！　あっ、や、その……展示、見てくるわ！！」
　早口にそう言って、一馬は、バタバタと展示コーナーの方へと進む。
（落ち着け、俺。深呼吸、深呼吸……）
　触れ合った箇所が熱を帯びている気がして、顔が熱く……なりかけたところに、
「……お？」
　圧倒的な存在感を放つ『それ』に目を引かれて、一馬はぱたと足を止めた。
「おわー、でかー……」
　一馬がまじまじと見つめるは、１mほどの大きさのクマのぬいぐるみ。
　滝原レオンの展示スペースの前で、一馬は顎に手を宛がい、小さく唸った。
（めちゃくちゃ丁寧な作りだって、俺にもわかる。俺みたいなんだとでかいぶん雑に作っちまいそうだわ）
　しかも、だ。
（これ、横のちっさいのも同じやつが作ったんだろ？　お、端っこに製作者のプレートが……あっ）
　一馬は顔を上げて、店内の方へ視線を移した。
　そこに丁度、絽紗と話しているレオンの姿を見留め、
（これ作ったのあいつなのか！）
　と、胸の内に、一馬は声を上げる。
　眼差しに気づいたレオンが、じろりと一馬のことを睨んだ。
　いや、実際は、レオンは相手を睨むのではなく、訝しむような顔をしただけなのだけれど。
「滝原君、どうかしました？」
　絽紗の声が、店内を満たす楽しげな声に混じって、一馬の耳にも届く。
「いや、なんか、すげえ見られてたから……」
「気のせいじゃないですか？　……あ、高峰君」
「な？　こっち見てるだろ？　とにかく、俺はもう裏に戻るから、さっきの件よろしくな」
　怪訝な顔でもう一度だけ一馬の方を見て、バックヤードへと戻るレオン。
　こちらへと小さく手を振る絽紗に手を振り返し、ああ、やっぱり可愛いな、なんて思うと同時、
（……あいつ、大塚とも一緒に手芸したりしてんのかな……って、いやいや）
　なんて考えもまた、一馬の頭を掠めた。
　負の感情は全くないが、自分にできないことができるレオンを、純粋に羨ましいとは思う。
「……よっし、次行くか！」
　気持ちを切り替えるように呟いて、一馬は大きく歩を進めた。