【寝子祭2nd】メイド喫茶で秘密の時間を｜リアクション

【寝子祭2nd】メイド喫茶で秘密の時間を

　おおっぴらに呼び込みをおこなったりはしない。
　むしろ告知のポスターすら、控え目にしか掲示しなかった。
　接客は美野梨とマーガレットだけ、厨房にいたってはイルマだけという人手の問題がある。ゆとりある空間にしたかったのでスペースも絞った。それゆえ、あまりたくさんの来客を迎えることはできないためだ。
　それでも、まるで運命に導かれるようにして、幾人もの客人がこのメイド喫茶を訪れた。

◇　◇　◇

　最初は違和感があった。
　ようく見知ったはずの校舎が、まるで知らない場所のよう。
　卒業して半年ぶりだからかな。
　それとも、今日が寝子祭……非日常の場だからかな。
　寒空の下でミスコンを見ていたときはどうしても、知らない学校の学祭に来ているような気持ちがどこかにあった。
　けれども校舎内に移って、なんだか埃っぽくかすかにカビくさく、なのに瑞々しい匂いを嗅いでいるうちに、だんだんと肌が感覚を思いだしてきて、寝子高に帰ってきたのだと、落合まゆらは自覚しつつある。

　去年ミスコンに出たのが、もう一年前なのかぁ――。
　とてつもなく変化に富んだ一年であったと同時に、まばたきする間もなく亜光速で飛んでいった一年でもあった。それほどに、まゆらの一年はめまぐるしいものだった。
　歯が鳴るような寒さをこらえ水着姿で、高校生としてステージに上がったあの日と、OGとして温かい目で、現役女子高生の水着姿を鑑賞した現在、そこには天地の差があるようにも思う。
　今年のミスコン、良かったなぁ――。
　口元がゆるんでくる。
　なんたって、目の保養になるもの～。
　すらりと脚が長いモデル体型の子も、出るところが出まくっていてタッチしたくなる子も、思わずなでなでしたくなるちっこくて可愛い子も、どの子もわけへだてなく愛おしかった。眼福、眼福のひとときであった。
　眼福て……スケベオヤジかっ！
　と自分にツッコミを入れながらまゆらは昨年の記憶、つまり自分があの舞台にあったときを回想する。
　寝子祭のミスコンには、まゆらも水着で出場した。
　だから寒かった。それは揺るぎない事実だ。
　それでも、寒さを上回る情熱もあった。
　なにせ水着というのが、そんじょそこらの水着ではないからだった。
　わざわざミスティが着てたのと同じデザインのを探して――。
　ぽわあと頬があったかくなる。
　大変だった。まゆらはこのとき、自身の人生を決めたといっても過言ではない名作アニメ『魔法少女ミスティックアリア』の主人公（ミスティ）が真夏のエピソード、俗に言う水着回で着用していたものと同じ、少なくとも限りなく近い水着でコンテストに出場しようとしたからだ。
　ミスティの水着エピソードはたった一話だった。そしてもちろん、ミスティが身につけている水着が公式で発売されているはずもなかった。なのでイメージに近いものを探すには、店舗やネットの膨大な海を泳ぐ必要があった。
　さんざ探して見つからずくたびれ果てたころ、偶然『ミスティックアリア』の衣装デザインを手がけるスタッフの個人的なブログにたどりついた。そこからそのスタッフが参考にしているというファッションサイトをしらみつぶしにしてようやく、まゆらはイメージぴったりの水着を見つけたのだ。
　アニメに出てきたのとそっくりの水着だった。悪く言えば剽窃かもしれないが、アニメのインスパイア元と言うほうがいいだろう。そこそこ値段は張ったものの、まゆらにためらう理由はなかった。
　もうね、ミスティの水着でステージに立てただけで感無量だったなぁ……！
　熱湯風呂に入って「ミスティック・スプラァァァッシュ！」と叫んだことも、いまではいい思い出だ。テレビ番組でよくあるやらせ的なそれではなく、肩までつかると震えが走りそうな熱湯だったのには参ったが。
　などと懐かしく思い返しつつ、さまざまなな展示や模擬店をまゆらは楽しんだ。高校生らしく稚拙なものあり、斬新すぎるものありアイデア勝負のものあり、いずれにせよ満喫して、そろそろ歩き疲れてきたあたりで、
「メイド喫茶？」
　ほほう、と顎に手をやりたくなる貼り紙を目にしたのだ。プラネタリウムとかたこ焼きとか手芸ショップとか、そういう力強い掲示にかくれるように、ひっそりとした一色刷りのポスターだった。Ａ５サイズなのもつつましい。
　休憩にはちょうどいいし、メイドさんを鑑賞するのにもいいよね、とまゆらはポスターに示された教室を目指した。
　ええと、ここかな……。
　古生物の化石展示室と、イラストレーションの作品展示を通り過ぎたあたり、占いの館と題された教室の隣に目指す店はあった。

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