くすみのない乳白色、骨灰磁器(ボーンチャイナ)のティーカップ。
金の縁取り艶やかに、貴婦人のような取っ手の形状。
側面の絵付けはどこか、追憶のような田園風景。
やはりボーンチャイナのソーサーと、揃いで夢を醸し出す。
まるで夢なのはティーカップだけではない。ここが寝子島高校の教室だと、一体誰が信じられよう。
机を並べたテーブルは琥珀色のクロスに覆われ、煉瓦調の壁紙には暖炉も描かれている。ウィリアム・ターナーの風景画、天井に下がるシャンデリア、レトロモダンなポールハンガーに至るまで、格式と伝統の英國風を、今に伝えるカフェである。
「いかがでしょう?」
左右の踵を揃えて立って、
マーガレット・ライカーは照れ気味に問う。
「よくお似合いです」
薔薇の蕾がひらくように、
イルマ・サトウは微笑した。
マーガレットの装いは、まさに可憐の一言だった。漆黒のワンピースにフリルのついた白エプロンを重ね、やはりフリルのヘッドドレスで頭を飾っている。胸元には鮮やかな蒼、紐状のリボンをすうっと器用に、蝶のように結わえてあつらえたものだ。留めるブローチも、透き通るような光沢の蒼。
清潔感のある立ち姿、すなわちメイドの扮装なのだ。
「本職のイルマさんに褒めてもらえると、どうにもはにかんでしまいます」
マーガレットは薄く頬を染めた。
もちろんイルマもメイド姿だ。彼女にとっては仕事着といっていい。たおやかなだけでなく、見ているだけで背筋が伸びるような、凜としたたたずまいがあった。
本日は寝子島高校の文化祭、すなわち寝子祭である。教室のひとつを借りて、ミステリ研究会ならびにBL同好会の有志は、合同でメイド喫茶を出店したのだった。
コホンとドアの外で咳払いが聞こえた。
「入るね」
からりとスライドの扉を開けて、
神野 美野梨が入ってくる。
「わあ」
マーガレットは手を叩いた。イルマも。
なんと優雅か、美野梨のメイド姿は。
丈の短いエプロンドレス、カチューシャとしての役割にとどまらず、髪を束ねる白いリボン、ハート型にひらいた胸元、猫の髪飾りもいいアクセントになっている。
「可愛いです。とても可愛い」
相好を崩すマーガレットに、あなたもと美野梨は返す。鼻の頭に熱っぽいものを感じながら。
いわゆる模擬店なのだから、メイドさえいれば
『メイド喫茶』を名乗って問題はないのだが、三人は服装はもちろんのこと、あえて食器、内装にもこだわってみた。だから入り口のドアさえくぐれば、そこはまるで別世界、ブリティッシュイメージの気品と格調、時間の流れが異なるような、ほかでは味わえない秘密のようなひとときが訪れるだろう。
マーガレットと美野梨が給仕、イルマが主として調理を担当する。用意しているものはいわゆる喫茶店メニューだが、コーヒーはポットで出し、カレーライスも英パブ風に、フッシュ・アンド・チップス添えの一工夫を加えてある。寝子祭めぐりの休憩のみならず、格式と癒しを提供したい。
「メイド喫茶って、ほら、定番のあいさつがあったよね?」
「ええと……ああ、あれですね」
と顔を見合わせる美野梨とマーガレットに、
「それでは声を合わせて言ってみましょう」
練習です、とイルマは告げた。声を合わせて述べる。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様!」
ゲームマスターの桂木京介です。よろしくお願いします
本作は寝子祭のプライベートシナリオ、メイド喫茶のシナリオとなります。
マーガレット・ライカーさん、イルマ・サトウさん、神野 美野梨さん、ガイドへの登場、誠にありがとうございました。
概要
本格的な食器と雰囲気、そしてなによりくつろぎと癒やしを提供する『メイド喫茶』という体でシナリオガイドを組んでみました。
お三方の奮闘ぶりや仲睦まじい様子、おいしそうな料理など、ゆったりと描写させていただく所存です。来店のお客様も2名様ほど、充実した時間をすごしているところを描かせていただきます。
来店のお客様には特に制限は設けておりません。
ひと、もれいび、ほしびと、どなたでも歓迎いたします。
お店のメニューについては、カレー、紅茶、コーヒー、クッキーなど、喫茶店にありそうなものであれば特に制限はありません。
それでは次は、リアクションでお目にかかりたく思っております。
桂木京介でした。