探し求めるは虹色の桃｜リアクション

探し求めるは虹色の桃

　虹色に輝く桃。それが生る木の噂を聞いた時、楡宮遠海はそれは絶対に美味しいものに違いないと確信をしていた。
　噂には味に関する情報等なかったのだが、それでも何故か確信していた。
　見た目は如何にも名家のお嬢様然とした遠海だが、実際は規格外の大食らい女子。美味しいものには目がなく、食材や食事の話には飛びつく程に興味津々なのである。

　そうして虹色に輝く桃を求めて遠海は出かけたのだが、一つ大きな問題があった。
　この如何にもお嬢様な見た目をした少女は大食らいと同じくらいに規格外に方向音痴なのだ。

「うーん。おかしいなぁ、ここどこだろう？」

　つい先ほどまで旧市街を歩いていた筈なのに、何時の間にやらシーサイドアウトレットの大観覧車が見えてるところに来ている。
　迷子になってここに辿り着くとは一体どんな風に迷えばそうなると言うのだろうか。
　しかし、遠海は大観覧車を見上げたところでピンと閃く。

「大観覧車に乗って、空から一望すれば見つかるかも？」

　何故、そんな考えに到ったのか。それは誰にも解らない。恐らく本人にも解らない。永遠の謎である。
　当の本人はその事に疑問を持つ事もなく、いざ急げと言わんばかりに大観覧車へと小走りで向かって行き、ゴンドラへと乗り込んだ。

「虹色の光、虹色の光……」

　これが執念というものだろうか？　虹色の桃を食べた過ぎて、遠海は食い入るように外の景色を見ている。
　幾ら大観覧車とは言えここから見つかるならばそう苦労はしない。きっと誰かが聞いていればそんなツッコミが入った事だろう。

　けれど、あまりに食べたそうにしている遠海に免じて神の加護があったのだろうか。ゴンドラの窓に張り付いている遠海の目に虹色の輝きが見えた。
　それはあまりにも淡い輝き。もしかしたら目の錯覚かもしれないと一瞬本人さえ思う程のもの。だけど、確かに虹色の輝きだったと思い直す。
　見えた場所はエノコロ岬。そこで、ふと思い出す。そう言えば噂の中にエノコロ岬がどうとか言う話もあったかもしれないと。

「まぁ、場所が解ったのだから問題なしね」

　ポジティブ精神。と言うよりかは、既に虹色の桃しか頭にないだけかもしれない。

「はぁっ、はぁ……。一体、ここどうなってるの？」

　エノコロ岬方面だと理解した遠海は早速向かったわけだが、まず迷子になるのはデフォルトであるのでまだ良い。
　しかし、森に入った後が問題だった。凄い形をした角を持つ鹿に似た動物に遭遇し懐かれるのなんて序の口。
　それを何とか振り解いたかと思えば、水色のべとべとした何かが上から降って来て服の中に入って来ようとしたり、草が伸びて只管転ばそうとしてきたり。
　幸いな事に水色のべとべと
　だけど、それでも虹色の桃に対する遠海の執念の炎は消える事はなく、ついに虹色に輝く木へと辿り着く。

「桃、桃はどこ？」

　そこまで大きくはない虹色に輝く木の枝を一本一本見ていれば、かなり低い位置に生っているのを発見する。

「あった！　あの位置ならジャンプすれば獲れるかな？」

　念の為、真下の地面をちゃんと均して怪我をしないようにしておく事を忘れない。
　そして、ジャンプ一閃。着地した時にはしかとその手の中に虹色の桃が握られていた。

「ふぅ……。苦労したけど、何とか手に入れる事が出来た……」

　大事そうに虹色に輝く桃を抱える遠海。あまりにも綺麗なその見た目に思わずそのままかぶりついた。

「おっいしーい！」

　語尾にハートマークがついていそうな大声が森の中に響く。
　味は紛れもない桃のもの。だけど、その瑞々しさはこの世の物とは思えない程のようで、すっかり遠海は興奮している。
　じっくりゆっくりと、しかし確かに桃を堪能する遠海。こうして桃を食べた遠海は後日、運勢が良い日々を過ごして桃の効果が確かなものであった事を実感する事となる。

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