【寝子祭2nd】『Nekos・eminyas』｜リアクション

【寝子祭2nd】『Nekos・eminyas』

☆寝子祭当日にゃ！（４）

　休憩を終え、占い師の衣装に再び着替えて。
　猫タロット占いの館の中で、恵御納夏朝は小さく息を吐いた。
　喫茶店からは賑やかな声が聞こえるが、夏朝の方は、今、手が空いている。
（タイミングってあるよね。でも、こうして耳を澄ましているだけでも……）
　自分まで楽しい気持ちになる、と頭の中に構築されかけた思考を、とある気配が遮った。
　夏朝の口元に、笑みの花が朗らかに咲く。
「冬夜君、だよね？　来てくれてありがとう」
　空気が、くすくす笑いのように静かに揺れた。
「君の事も占ってみて、いいかな……？」
　尋ねて、タロットをシャッフルする。
「……夢を描くには、様々な物事に触れること、か……」
　占いの結果を零して、御守りキーホルダーとクッキーをテーブルの上にそっと置く夏朝。途端、
（あ、れ……？）
　濃い霧のような眠気の波に覆われて、夏朝は、堪らずテーブルに突っ伏した。
　眠りの底に落ちていきながら、夏朝は、楽しげに笑う恵御納冬夜の姿を、夢と現の隙間に見る。
（やっぱり冬夜君……だ……。寝子祭……冬夜君も夏夜ちゃんも楽しめますように……）
　願って、そこで、夏朝の意識はいったん途絶えた。
　少しの間の後、むくりと身を起こしたのは、夏朝の片割れ・夏夜だ。
「……冬夜の仕業かな？　それとも、神魂の気紛れか」
　どこか可笑しげな声で呟いて、夏夜は、猫タロット占いの館の中を見渡す。そして、
「……綺麗だよ、夏朝。すごく」
　優しい色が滲む声で、ぽつり、音を紡いだ。

※

　生徒達の希望を優先しながらも、休憩時間を揃えていた恵御納久隆と恵御納理沙。
　２人は客として、『Nekos・eminyas』を訪れていた。
「すみません、端っこの席しか空いていなくて……」
「いや、謝る必要はないよ。娘達の店、やはり客としても楽しみたくて来たんだが……」
「夏朝ちゃん達のお店が人気で、皆が楽しそうに過ごしてるの、本当に嬉しいもの」
　久隆の言葉を、理沙が継ぐ。
　そして、ドリンクセットを注文して間もなくのこと。
（……あら？）
　辺りを漂う、姿は見えないけれど確かな存在の気配を、理沙は感じ取った。
　久隆へと、視線を送る理沙。
　久隆の方も理沙と同じ気配を感じ取っていて、妻に向かって、小さく頷きを返した。
「旦那様……」
「ああ。懐かしく、愛おしい気配だ。……冬夜、少し待っていなさい」
「ええ。折角だもの、一緒に過ごしましょう？」
　小声で話しかけて、久隆は手を上げ、接客係を呼ぶ。
「チョコのプチケーキとジュースのセットを追加してもいいかしら？　後、いすをもう１つお願いするわ」
　理沙の変わった注文に、接客係の寝子高生は少し不思議そうな顔をしたけれど、じきに、
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
　と笑顔で頷いた。
　全員の注文と冬夜の分の椅子が揃えば、家族の時間の始まりだ。
「コーヒー……は、冬夜には早いか。ハムとレタスのサンドイッチは食べられるだろうか？」
「私の生クリームと苺のサンドイッチの方が食べやすいかもしれないわね。冬夜君、分けっこしましょう～」
「理沙、それなら、ハムサンドは私と君とで食べよう。ほら」
「ありがとう、旦那様。……冬夜君も美味しく食べているかしら……？」
　ハムサンドを皿に受け取って理沙が零した声に、久隆は、力強く応じた。
「私達の子だ。君が考えたメニューだからな、きっと気に入ってくれる」