補習危機一髪！　～白い魔弾とウザイ奴～｜リアクション

補習危機一髪！　～白い魔弾とウザイ奴～

【勉強が好き、先生が好き】

（なんや、あれ。めっちゃ難しそう……）

　柳司は天吏が読む本のタイトルをチラ見して眉根を顰める。

（確か2年の先輩やったと思うけど、来年になったら数学はあないに難しくなるんか。今でも十分難しいっちゅーのに、どないしよ……）

　頭を抱える柳司だったが、天吏が読んでいるのは非線形方程式に関するもので高校までの過程で習うことはない。
　大学で理系の道に進まなければ勉強することのない範囲だ。。
　しかしそれが解らないのは柳司だけでなはない。
　気づいているのはウォルターと、八神修位だった。

（あの先輩も数学が得意なのか……？　非線形方程式は面白そうだし、補習が終わったら関連書籍を探してみようかな）

　そんな風に修が考えてると他の生徒の指導を終えたウォルターがやってきた。
　天吏が何やら虚空に手を伸ばしてブツブツ言っているのが横目に見えたウォルターだったが、少し変わった彼女のこと、そういう勉強スタイルなのだと容認することにした。
　彼女は元々勉強ができないわけではないし、声も大きくないし、誰かに迷惑をかけているわけでもない。
　現実には。
「中がどうなっているか気になるから内臓見せて」
　……なんてサンマさんが涙目にならざるを得ないことを言って彼らを捕まえていたわけだが。
　サンマさんの見えていないウォルターには知る由もなかった。

「そういえば八神と美崎は英語の勉強がしたいんだっけ？」
「ええ♪　私、せんせーの国の言葉もっと知りたいわ！」
「はい、よろしくお願いします。俺は言い回しとか発音が気になります」
「んー、試験の方は問題なかったし、受験勉強はまた別の機会にやるとして……じゃあイギリス英語とアメリカ英語の違いについて少し話そうか」

　そう言ってウォルターは黒板の前に立つとカツカツと軽快な音を立てていくつかの英単語を書き始めた。
　そして手を動かしたまま口も動かす。

「イギリス英語とアメリカ英語の違いはお互いに伝わらない程違うものではない。ただ、聞いて君達が気づくとするならやはり発音だと思う。特にRに関しては舌を巻かないのがイギリス英語。ボクのhereって発音、映画とかでよく聞くのとちょっと違うでしょ？」

　修も岬もウォルターの言葉に真剣に耳を傾けている。
　ただ修がきりっとした表情なのに対して、岬の方はうっとり、といったかんじだ。

（うーん、やっぱりせんせー素敵だわ）

　ウォルターは年の割にやや若く見えると言っても十分大人の色気を漂わせるイケメンである。
　しかし岬がウォルターを愛するのは外っ面だけが理由ではない。

「……ねぇ、あなたもそう思わない？　ふふ、勿論あなたのことも大好きよ？」

　現にこうやってウォルターとは全く容姿の落書きサンマさんも愛でている。
　掌の中に閉じ込め、ツンツンと指でつつきながら。
　サンマさんの目は岬からの重い愛の波動に耐えきれず、濁っている。
　まさに死んだ魚の目。
　そんな岬の愛に気づかないままウォルターは解説を続けていた。

「他に日常生活の中で気になることがあるなら、使う単語の違いかな。例えば地下鉄。アメリカではsubwayだけど、イギリスではundergroundとかtubeって表現する。あとは綴りが違う時もあるね。アメリカではcolor だけどイギリスでは colourだったり。文法などに関しては日本の学校で習うものは米英共通なんだけど、口語だと言い回しが変わってくる。それと傾向としてアメリカでは動詞がとるthat節を……って、そこ何してるの」

　ウォルターが黒板を向いたまま左手のチョークを左後方に飛ばした。

「んふふ、甘いんだよ、ウォルちゃんせんせー！」

　俊敏に上体を反らしてチョークを華麗にかわしたのは回転院環だった。

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