幸せの白猫｜リアクション

幸せの白猫

「カルボナーラが食べたい」
「……ほう？」

　それは学校の帰り道。八神修が遠藤健と一緒に帰っていた時の事だ。健が突然そんな事を言いだした。
　この二人は友人関係にあるわけだが、彼等の会話は唐突なところから始まる事がある。今のように。

「蕩けるような半熟の目玉焼きを上に乗せ、かなり厚いベーコンにスープ風のソースって感じのが食べたい」
「随分具体的だな……」

　それもその筈。実は昨日の夜にテレビで見たものなのだ。
　それが本当に美味しそうに見え、しかも時間的に小腹が空いている時間帯に思い出してしまった為にこんな事を言いだしたというわけだ。

「うーん。カルボナーラを出す店は知ってはいるけど、それっぽいところあったかなぁ」

　友人の為となればと修が記憶を思い起こす為に考え始める。
　しかし、修の思考が何かしらの店を出す前に、それは現れた。

「八神、カルボナーラだ」
「……は？」

　一体、この友人は何を言っているんだろうかと言うような目を健へと向ける修。

「間違えた。白猫だ」
「いや、白猫をカルボナーラと間違えるってどういう間違いだよ！？」

　全く持ってその通りである。見間違えにしろ言い間違えにしろただのやばい人になっている。
　もしかして、あまりにカルボナーラが食べた過ぎて頭がおかしくなってしまったのだろうかと修は思うが、それも仕方ない事だ。

「ていうか、白猫？　……あ、本当だ」

　思考に没頭していた為に気付かなかったが、二人から少し離れた正面に真っ白な白猫がいた。全身が白い為に赤い瞳がとても目立っている。
　そして、二人とも気付いた事を知ると、くるりと背を向けて一瞬だけこちらを振り向いた後に歩き出した。

「ふむ……。遠藤、付いて行こう」
「え？　付いて行くのか？」
「あぁ。あの白猫、付いてこいって言ってる。きっとどこかに案内してくれるんだよ」

　遠藤に笑みを向け、そう断言する修。それはこれまでに猫と接してきたが故の確信だろうか。
　だが、友人がそう言うならばと健もまたそれに同意するように頷いた。

「最近、幸運の白猫ってのが噂になっててさ。この猫がそうなんじゃないかなって思ってるんだ」
「へぇ。幸せまで案内してくれるってわけか」

　白猫に案内されるがままに歩く二人は、この猫の事について話をしていた。

「幸せか。沢山の猫がいたら俺的には幸せだなあ。それか、新しい問題集があっても良いな」
「八神は相変わらずだな……」
「じゃあ、遠藤は何が良いんだ？」
「カルボナーラ」
「……ブレないのはお前も同じだよ、多分」

　二人の目の前を歩く白猫もまるで同意するように尻尾を振る。
　結局のところ、性格とか細々としたところに差異があっても根本的なところがこの二人は似ているのかもしれない。

「おぉお！」

　目を輝かせた修が嬉しそうに声を上げる。
　最終的にどことも知れない広場に着いたのだが、そこには色々な種類の猫が大勢待っていた。
　早速修は沢山の猫達をモフる為に、猫達の元へと向かう。

「はぁあ……。やはり、猫達は良い。……でも、こっちからも何か贈りたいな。なぁ、君達の願いを叶えさせてくれないか？」

　散々モフって堪能した修はそう猫達に語り掛けながら鞄の中から猫オヤツやブラシ、タオルを取り出した。

「ブラッシングでもおやつでも良いし、このタオルで玩具を作ったりもして上げるよ？　なぁ、遠藤も手伝って……何してんの？」
「カルボナーラを食べてる」

　遠藤も手伝ってくれるよなと言おうとして、健が何故かカルボナーラの皿を持って食べてる事に気付く修。

「……どこからカルボナーラを？」
「何かそこの店で買えた。しかも皿を外に持って行って良いとか言われた」
「……そうか。まぁ、良い。食べたら遠藤も手伝ってくれよな」

　この後、二人は猫達に沢山の幸せを贈るのだった。

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