幸せの白猫｜リアクション

幸せの白猫

「はぁぁ……。どうしようかなぁ」

　桜花寮の自室にて羽生碧南がテーブルに肘をつきながら頭を悩ませている。
　碧南はここ最近、所属しているバスケ部の活動が忙しく趣味の一つである乙女ゲーのプレイが出来ない日々が続いていた。
　そして、今日は待ちに待った部活がない日曜日。さて、何をしようかと考えているのだが現在手持ちにある乙女ゲーは既にどれもコンプリート済みなのだ。
　前々から新作を買おうかと思ってはいるものの、学生の身ではそうそう新作を買える筈もなく今日まで来てしまっていた。

　碧南はゴロゴロする気にもなれないし、こうして悩んでいるというのも時間が勿体ないと思った。
　買うかどうかは解らないが、とりあえずはゲームショップに行ってみようと出かける準備を始めるのであった。

　寮を出てゲームショップへ向けて碧南が歩いていると、どこからともなくにゃーと言う猫の鳴き声が聞こえる。
　足を止めて鳴き声がした方に視線を向けてみればそこには真っ白な白猫がいた。

　猫らしく前足を揃えて座っているその姿は可愛らしく、碧南はちょっと撫でてみようかなと近寄ろうとするがそうすると距離を取る。
　あれ？　と、首を傾げて再度撫でようとするも同じように離れていってしまう。様子を見れば碧南の事を怖がっているという風ではないのだが、一体どういう事だろうか。
　だが、碧南は諦めるという言葉を知らないかのようにチャレンジをし続ける。

　撫でようと近づく。いつの間にか逃げられる。撫でようとする。寸でのところで躱される。
　碧南の方も多少、近づき方等を変えて撫でようとするがどうやら猫の方が一枚上手のようで上手くいかない。

「んもうっ。こうなったらどうにかして撫でて上げるからねっ」

　すっかりムキになった碧南は夢中になって追いかけ始めるが、白猫は涼しい顔で碧南をスルーし躱す。

「あぁっ、惜しいっ！　……って、あれ、ここどこ？」

　もう少しで触れそうなところで、やはり今までと同じように躱されてしまう碧南。
　だが、そこでいつの間にか見知らぬ場所へと来ていた事に気付く。目線を上げればそこにはどうにもゲームショップらしき店がある。
　けれど、碧南にはその店に見覚えはない。乙女ゲーが好きな彼女は寝子島にあるゲームショップの情報は逐一調べているのだが、全く見知らぬ店であった。

「んー？　新規開店でもあったのかな？」

　不思議に思いつつも、ゲームショップならば丁度良いと中へと入ってみる事に。
　店の中はゲームショップらしく様々なゲームが陳列されていたが、その値段を見て碧南は吃驚していた。

「えっ。何ここ？　新作のゲームとかでも凄い割引されてる……」

　そう。陳列されている商品のどれもが何故か割引されているのだ。
　例えば、RPGで代表的なゲームとして知られているシリーズの最新作や世界的知名度も抜群な配管工の人が出るゲームも割引中。
　しかも、その割引率も定価の半額どころか八割引きすらあったりする。

「もしかして……！」

　そこでふと閃く。
　もしかして、ここならば買おうと思っていたあのゲームも割引がされているのではないかと。
　そして、視線を巡らせれば直ぐに見つける事が出来た。それも何故か、予約特典付きで九割引きと言う値段で。

「これなら――買えるっ！」

　碧南は即座に財布の中身を見て、買う事を即決する。
　だが、この時の碧南は知らない。後日、この店にまた来ようとして店を発見する事が出来ず、それどころかこの店の情報なんてどこにもないという事を知る事になるとは。
　それを知った碧南の耳にはにゃーという声が聞こえるのであった。

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