幸せの白猫｜リアクション

幸せの白猫

「ふんふんふ～ん♪　ん、っと？」

　鼻歌を歌いながら吉住志桜里は歩いていたが、何かに気付いたのかピタリと足を止める。

「白猫？」

　建物の影で赤い光が見えたような気がすると、志桜里がそこを凝視してみればいたのは一匹の赤い目をした白い猫だ。
　首輪はしていないのに、まるで新雪のような白い毛。首輪はしていないけど飼い猫なのだろうかと首を傾げる志桜里。
　すると、影から出て志桜里の側を通って歩いて行こうとする。

「えっ！？」

　だけど、志桜里の側を通る瞬間。志桜里の気を引く様に右に左にと尻尾が揺れる。しかも、良く見てみればその尻尾がまるで二本あるように見える。
　そんな白猫の事が気になって志桜里はその後を付いて行く事にした。

「もしかして、噂の白い猫又でしょうか……」

　志桜里が呟いているのは十一月になった寝子島でひっそりと噂になっている案内をしてくれる白猫の事だ。
　その噂についての言及は細かいところは人によって違うのだが、中には猫又だったというものがあったのだ。
　噂によればついてけばちょっとした幸運があると言われていたが、果たして。

「ここは……」

　白猫の後を追う事暫しの時間。辿り着いたのは志桜里がたまに足を運ぶ古着屋だった。
　古着屋といっても志桜里は洋服代を抑える為にここに足を運んでいるわけではない。実はこの店は、結構な掘り出し物が置いてある事があり、それを目当てに通っているのだ。

「ここに案内されたという事は。もしかして……」

　何かに気付いたような様子で志桜里は店内へと足を進める。
　もう何度も訪れた店であるだけに、何がどこにあるか等店内の様子を志桜里は把握している。だから、もし自分に沿う物があるならばこの辺だと当たりをつけて探ってみればあった。

「これは、まさかっ！」

　志桜里は目を見開き驚愕している。
　それはマネキンに飾られた海外HIPHOPアーティスト幻のライブ会場受注生産限定パーカー＆Tシャツ、ヴィンテージのジーンズにスポーツメーカーコラボのミドルカットスニーカーというお宝四点セットという志桜里からすれば喉から手が出る程欲しい物だ。
　このセットの凄いところはこのコーデの為だけに合わせられたと言っても過言ではない程に完璧な一張羅となっているところなのだ。
　そう。これだけで完成された世界。そこに例え如何なる物であろうとも混在は許さないと言う確かな意思さえ感じられる。

　志桜里は近くに寄って様々な角度からそのセットを観察する。
　すると、どうにも着られた後は全くないという事に気付いた。何せ全く袖を通した形跡というものが存在しないのだ。
　ただ単に着辛かったのか、それとも元よりファンが蒐集の為だけに買って、何かしらの事情があって手放したのか、それは解らない。

「不思議なのは、何故これがこんな値段なのかと言う事ですが」

　志桜里が値札を見てみると完全な古着扱いの値段が提示されている。
　普通の服であってもここまで状態が良ければもう少し値段がしても良い筈だし、何よりもこのセットは完全にプレミアが付いてる物だ。
　この店は古着屋をしているだけに、そういった物の情報は仕入れており今までこんな事は一度たりともなかった。志桜里が不思議に思うのも仕方ないだろう。

「これはもう買えと言われているようなものではありませんかっ」

　誰かにそう言われたわけではないが、それでも志桜里がこう考えるのも当然と言える。
　こんな幸運、二度もある筈はない。そう思った志桜里は迷う素振りも見せずに、試着室へと一直線に駆け込む。
　試着室に行ったと言っても、それはポーズのようなもので既に志桜里の中では購入する事は決まっているのだが。

　そうしてプレミアのセットを手に入れた志桜里はその帰り道、今夜のサイファーへはこれを着て繰り出してやろうと今にもスキップしそうな程テンション高く帰路に着いた。

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